著者
井尻 朋人 宮下 浩二 浦辺 幸夫 武本 有紀子
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.91-95, 2006 (Released:2007-01-30)
参考文献数
10
被引用文献数
3

Clinically, strengthening exercises for scapular abductor muscles such as serratus anterior is usually prescribed for patients with scapular winging. However, the effect of such exercises on shoulder function is still unclear. The purpose of this study was to examine the changes of muscle strength on the shoulder joint after exercise for scapular abductor muscles. Thirty-six healthy male subjects participated in this study. All subjects were randomly assigned to either the exercise group (EX group) or control group (CO group). Initially, the muscle strengths of scapular protraction (PR), shoulder flexion (FL), abduction (AB), external rotation (ER), and internal rotation (IR) were measured in both groups. The EX group was instructed to perform the modified "elbow push up plus". The CO group did not perform any exercise. The muscle strengths were measured again after the training period. The paired t-test was used to compare the muscle strengths between before and after the training period. The muscle strengths of scapular PR, shoulder FL, AB and IR were significantly increased in the EX group (p<0.05). On the other hand, no significant increase was found in the CO group. Since the movement of shoulder FL, AB and IR involve scapular posterior tilt, upward rotation, and protraction movement, respectively, the increase of scapular abduction strength might have caused the increase in muscle strengths of shoulder FL, AB and IR. The muscle strength of the shoulder complex may depend on the function of the scapulothoracic joint.
著者
井尻 朋人 宮下 浩二 浦辺 幸夫 武本 有紀子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0270, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】 肩関節の筋力低下は、腱板などの肩甲上腕関節の筋力低下のみならず、肩甲骨の安定性の低下によるものが少なくない。肩甲骨の安定性には前鋸筋が大きな役割を果たしており、安定性が低下している例に対しては前鋸筋のエクササイズを行うが、その有効性は明らかではない。本研究は、前鋸筋の筋力強化により肩関節の筋力が増加するという仮説のもと、その効果と有効性を分析した。【方法】 肩関節に疾患を有さない健常男性を対象とし、15名をエクササイズ群、12名をコントロール群とした。エクササイズ群に前鋸筋エクササイズであるElbow push up plusを1日20回×3セット、1週間行わせた。エクササイズ前と1週間後に肩関節の屈曲、外転、内旋、外旋および肩甲骨の外転筋力を測定した。肩関節の筋力の測定は徒手筋力検査法に準じ、マイクロFET2(HOGGAN Co.)を用いて得た力(N)にレバーアーム長を乗じてトルク値として算出した。肩甲骨外転筋力はマイクロFET2で得られた値とした。エクササイズ前の筋力を基準値100とし、1週間後の値を算出し、エクササイズ前後で比較した。また、コントロール群もエクササイズ群と同様に初日と1週間後で筋力測定を行い比較した。統計処理は対応のあるt検定を用い、危険率1%未満を有意とした。【結果】 エクササイズ群は1週間後に右肩関節屈曲106±5、外転110±10、内旋117±17、外旋105±9、肩甲骨外転119±20であり、左肩関節は屈曲108±9、外転113±12、内旋113±10、外旋104±8、肩甲骨外転114±12であった。コントロール群は1週間後に右肩関節屈曲101±5、外転101±6、内旋100±6、外旋101±4、肩甲骨外転100±2であり、左肩関節屈曲101±6、外転99±5、内旋99±5、外旋102±4、肩甲骨外転99±3であった。エクササイズ群は両肩関節屈曲、外転、内旋、肩甲骨外転で有意に筋力が増加したが、外旋では有意な筋力の増加はみられなかった。一方、コントロール群ではすべての筋力において有意な増加はみられなかった。【考察】 肩関節は肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節を中心に構成されており、前鋸筋の筋力低下による肩甲骨の不安定性は、肩関節の筋力低下の要因となる。Elbow push up plusは前鋸筋の筋力強化エクササイズであり、肩甲骨の安定性の向上を目的としている。今回の研究ではその効果により肩関節の筋力が増加したと考えられる。Elbow push up plusによって肩関節屈曲、外転、内旋筋力が増加した理由については、それらの運動が前鋸筋の作用である肩甲骨後傾、上方回旋、外転を伴うためであると考える。本研究の結果は、肩関節の筋力の評価や理学療法の処方において有効な情報になりうる。
著者
大林 弘宗 浦辺 幸夫 宮下 浩二 松井 洋樹 井尻 朋人 武本 有紀子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0325-C0325, 2006

【目的】 ストリームライン(stream line;SL)とは、水の抵抗を軽減するために水中で横一線に近い状態をとる姿勢であり、競泳競技の基本となっている。その一方で、SL姿勢時の過度な腰椎前彎が腰痛を引き起こす要因となることが言われている。しかし、競泳競技にみられる肩関節を中心とした上肢の運動と、腰椎アライメントの関連について研究されたものは少ない。本研究はSL姿勢に伴う肩関節屈曲角度の変化と腰椎前彎角度の関係を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】 対象は本研究の趣旨に同意を得られた肩関節および腰部に疾患がない健康成人50名(男性25名、女性25名)とした。平均年齢(±SD)は21.2±1.9歳であった。50名を競泳選手である競泳群27名(男性14名、女性13名)と競泳経験のない非競泳群23名(男性11名、女性12名)の2群に分類した。両群に直立位、肩関節屈曲30°、60°、90°、120°、150°、SL姿勢の計7姿勢をとらせ、各姿勢の腰椎前彎角を測定した。腰椎前彎角の測定にはスパイナルマウス(Idiag AG.Switzerland)を用いた。両群間において直立位と、各姿勢での腰椎前彎角の関係、ならびに姿勢を次の段階へと変えた際の腰椎前彎角の角度変化について比較した。統計処理は対応のあるt検定、studentのt検定を用いた。危険率5%未満を有意とした。<BR>【結果】 腰椎前彎角は競泳群では直立位(21.96±8.43°)と比較して、肩関節屈曲90°(25.22±7.01°)、120°(24.74±7.31°)、150°(24.19±7.29°)、SL姿勢(24.41±10.33°)において有意な変化を認めた(p<0.05)。非競泳群では直立位(20.74±7.53°)と比較して、肩関節屈曲30°(23.30±8.64°)、60°(23.39±8.36°)、90°(25.83±8.34°)、120°(24.48±8.02°)、150°(24.04±7.46°)、SL姿勢(28.43±7.56°)全てにおいて有意な変化を認めた(p<0.05)。しかし、両群間のそれぞれの姿勢の腰椎前彎角の比較において有意な差は認められなかった。また、腰椎前彎角は両群とも肩関節90°までは増加し、120°~150°までは減少した後、再びSL姿勢に向けて増加する傾向がみられた。肩関節150°~SL姿勢間にて、腰椎前彎が競泳群で0.22°増加するのに対して非競泳群では4.39°増加した (p<0.05)。<BR>【考察】 今回、肩関節屈曲150°~SL姿勢の間で、競泳群では腰椎の前彎がほとんど変化しなかったのに対し、非競泳群では前彎が増強した。これは肩関節屈曲最終域での肩甲帯の可動性が影響しているのではないかと考えた。競泳選手において、肩甲帯の可動性は一般成人よりも大きく(加藤ら、2005)、脊柱伸展による代償の必要が少なかったためと考える。逆に、肩関節の障害後に、肩甲帯の可動性が低下したまま競技を行うと、腰痛などの問題が惹起される可能性も考えられた。今後は肩屈曲最終域にて変化が大きいことに着目し、両群の相違点について検討したい。<BR>