著者
小林 太郎 武部 純 似内 秀樹 古川 良俊 石橋 寛二
出版者
Japan Prosthodontic Society
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.10-15, 2006-01-10
被引用文献数
3 2

症例の概要: 患者は54歳の男性. 1992年6月に左側口底部の腫瘤に気づき, 岩手医科大学歯学部附属病院口腔外科を受診した. 同年9月に下顎左側口底癌の診断のもと, 腫瘍摘出術が施行された. その後, 左側下顎骨放射線性骨壊死と下顎骨骨折が認められたため, 1993年3月に左側下顎骨区域切除が行われた. 術後経過は良好であったが再建は行われず, 1996年2月に補綴的機能回復を目的として第二補綴科を受診した. 下顎の患側偏位により上顎との咬合接触関係が失われていたため, 下顎顎義歯装着後, 1997年11月に下顎顎義歯ならびに下顎歯列との咬合接触部を設けた口蓋床を製作し装着した. 2001年4月に下顎顎義歯とこれに咬合接触する口蓋床を再製作後, 患側への偏位の抑制と咀嚼機能の改善が認められている.<BR>考察: 下顎の偏位の防止と咀嚼機能の回復を目的として, 口蓋部の咬合接触域にパラタルランプを付与した口蓋床を装着した. その結果, 咀嚼筋のバランスを保つことができ, 下顎の患側への偏位の抑制を図ることができた. 咀嚼機能と構音機能の改善程度を評価したところ, 下顎顎義歯とこれに咬合接触する口蓋床の装着により摂取可能食品の増加が認められた. また, 狭まったドンダーズ空隙を広げることにより, 構音機能の改善も認められた.<BR>結論: 下顎骨非再建症例における下顎顎義歯と, これに咬合接触する口蓋床の装着は, 下顎の患側への偏位の抑制と咀嚼機能の回復に有効であることが示された.
著者
武部 純 石橋 寛二 伊藤 創造
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

我々は、純チタン表面へ陽極酸化と水熱処理を行うことで陽極酸化皮膜表面上にハイドロキシアパタイト(HA)を析出させる表面処理(SA処理)法について検討してきた。その結果、SA処理インプラント体表面では初期の骨形成能が高く、口腔インプラント治療への有用性が示唆されてきた。しかし、SA処理チタンインプラント表面上での骨形成メカニズムについては不明確であることから、平成16、17、18年度の3年間に渡る研究プロジェクトでは、骨伝導性に関わるSA処理表面性状・構造の解析、骨形成関連遺伝子マーカーを用いた遺伝子レベルでの解析を行った。SA処理を施すことで表面の陽極酸化皮膜は多孔質化となるとともにHA結晶が析出する。SA処理により析出したHA結晶は、結晶性の高い六方晶系であること、六方晶系を呈するHA結晶の特徴であるa軸・c軸の分極による生体内体液のPとCaイオンの吸着現象の促進化、陽極酸化皮膜表面構造のぬれ性の向上と極性・表面エネルギーなどの向上など、種々の骨伝導能を促進させる因子を有する特徴があることが明らかとなってきた。一方、骨芽細胞培養モデルを用いた細胞外基質生成と石灰化形成の過程においては、SA処理により析出したHA結晶形態、HA結晶内部のPとCaの結合エネルギー、HA皮膜の構造に変化は認められないことが示された。さらに未処理チタンに比較してSA処理チタン上での骨基質形成関連遺伝子の発現は高まる傾向を示し、さらに遺伝子発現パターンも異なっていることが推察された。SA処理表面の陽極酸化皮膜から析出したHA結晶を含むHA皮膜の微細構造(表面形状・性状)は骨芽細胞内のシグナル伝達系に作用することで骨芽細胞の分化調節機構を活性化させ、その結果、骨芽細胞の分化・機能は促進されて骨伝導能を高める要因となり、早期のオッセオインテグレーションが獲得されるメカニズムとなっていることが推察された。