著者
水上 譲
出版者
水産庁西海区水産研究所
雑誌
西海区水産研究所研究報告 (ISSN:0582415X)
巻号頁・発行日
no.72, pp.p1-16, 1994-12
被引用文献数
2

(1)メチルコラントレン(MC)を腹腔投与したマダイ肝からチトクロムP450蛋白質を精製した。このP450蛋白質はSDS-PAGEで分子量約5.0万,純度は11.8nモル/mg蛋白であった。(2)MC処理したマダイ肝mRNAからチトクロムP4501A(CYP1A)cDNAを構築,クローン化し,一次構造を解析した。cDNAは約1.8kbの長さを持ち,515残基のアミノ酸をコードする1545ヌクレオチドからなるコーデング領域を含んでいた。(3)cDNAの塩基配列から推察されたアミノ酸配列の中に,Klotzら(1983)が海産魚のP450で報告しているN末端の9個のアミノ酸配列とほぼ同様な配列が,推察されるN末端近傍に,また,多くのP450に共通にみられるヘム結合領域特異アミノ酸配列と類似な配列が,予想されるC末端近傍に見い出された。マダイP450蛋白のアミノ酸配列と哺乳動物のそれを比較すると,P4501Aとは50%以上,P4502Bとは30%以下のホモロジーを示し,このcDNAはサブファミリーP4501Aに分類されることがさらに裏付けられた。(4)CYP1A mRNAの誘導発現量はMC投与直後に急激に増加し,その後はゆるやかに増加した。また,発現量はMC濃度に,ほぼ濃度依存的に増加した。誘導発現量は飼育海水の温度によっても多少影響されたものの,これらの結果は,一定の測定条件下では,CYP1A mRNAが薬物による環境汚染評価のための生物学的指標になり得ることを示唆するものであった。(5)MC,ポリ塩化ビフェニール等実験に用いた4種類のMC型薬剤の処理により,肝,腎,鰓,腸においてCYP1A mRNAの誘導発現がみられた。とくに,肝,腎にくらべ鰓,腸では比較的多く発現がみられた。また,哺乳動物においてはCYP1A型はフェノバルビタールやエタノールでは全く誘導されないにもかかわらず,マダイではこれらの薬剤によってもCYP1A mRNAの誘導発現が確認された。これらの結果は,P450の基質特異性の変化などP450の分子進化を考える上で興味が持たれた。
著者
岡内 正典 河村 功一 水上 譲
出版者
水産庁養殖研究所
雑誌
養殖研究所研究報告 (ISSN:03895858)
巻号頁・発行日
no.26, pp.1-11, 1997

キートセロスChaetoceros gracilisはクルマエビ類幼生の餌料として広く利用されているが,屋外での安定した大量培養は困難である。そこで,屋外での大量培養が比較的容易なイソクリシス(タヒチ株) Isochrysis sp. を餌料として利用することを目的に,ヨシエビMetapenaeus ensis幼生への餌料価値を調べた。飼育試験及び含有高度不飽和脂肪酸組成から,タヒチ株の餌料価値はキートセロスに比べて劣るが,キートセロスとタヒチ株の併用給餌により幼生の成長及び生残率は,各藻類を単独に給餌した場合と比べ,向上することがわかった。また,タヒチ株は屋外培養が容易であることも確認できた。タヒチ株を併用することにより,キートセロスの給餌量を約1/2に軽減することができ,クルマエビ類種苗への安定した給餌が可能になると期待される。