著者
水島 洋平
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.81-89, 2011-03

論説(Article)本稿の目的は、Anderson and Bushman(2002)が提唱したGeneral Aggression Model(以下、GAM)を用いて、男性家族介護者が高齢者虐待を引き起こすメカニズムを、衝動的攻撃と戦略的攻撃の視点から明らかにすることにある。本稿の分析で用いるGAMは、攻撃行動が生起するまでの段階が想定されており、男性家族介護者による高齢者虐待生起のメカニズムを明らかにするうえで有用であると考えられる。分析の結果、家事や介護行為に追われて内的状態を吟味するための時間的余裕がない、あるいは、介護に没頭してしまうことによって認知的資源に余裕がない男性家族介護者は、即時的評価を通じて衝動的攻撃を行なう可能性が高いことが導き出された。一方、長期間の介護生活を送ることによってもたらされる家事や介護行為への慣れ、介護の否定的側面のみならず肯定的側面への気付き、家族会に参加して介護困難を吐露するなど、内的状態を吟味するための時間や認知的資源に余裕がある男性家族介護者は、衝動的攻撃を選択せず、再評価を通じて状況を再解釈し、戦略的攻撃を行なう可能性が高いことが導き出された。最後に、男性家族介護者の「社会的孤立」を防ぐことが、男性家族介護者による高齢者虐待防止のための介入策や支援策のひとつになりうることを提案した。
著者
水島 洋平 Yohei Mizushima
出版者
同志社大学大学院総合政策科学会
雑誌
同志社政策科学研究 = Doshisha University policy & management review (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.115-126, 2009-07-25

本稿の目的は、ケア役割が男性にとってどのような意味を持つのかという問題意識の下、ケア役割を通して成人期男性がどのような発達を遂げるのかに焦点を当て、生涯発達の視点から考察することにある。近年、わが国においても、ワーク・ライフ・バランスの推進が喫緊の課題となっている。少子高齢化や産業構造の変化により、性別役割分業型家族が後退し、核家族が増加している。それに伴い、育児や介護の問題も変容している。かつて、育児や介護などのケア役割は、主に女性が担ってきたが、男性もケア役割を担う必要性、さらには、ケアに積極的に関わりたいという男性のニーズがあるなど、実態面や意識面での変化が見られる。本稿では、まず、ケア役割を通した成人期男性の発達の問題にアプローチする際に、生涯発達の視点を持つことの重要性を指摘した。次に、ケア役割と成人期男性の発達との関連性について明らかにするために、ケアの概念を概観し、成人期男性の発達にとってのケア役割の重要性について指摘した。最後に、ケア役割を通した成人期男性の発達を考えるうえで有用と思われるHavighurst、Erikson、Levinsonの発達理論の整理と理論から得られた知見を提示した。