著者
永森 静志 松浦 善治 宮村 達男 松浦 知和 蓮村 哲
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

まずはじめに、人工肝感染実験に用いる感染性クローンの構築のため、ヒトに輸血後肝炎を発症させ、しかもチンパンジーに対する感染価も高い、一人のC型肝炎患者血清より完全長のcDNA(NIHJ1)を作製した。このNIHJ1のバキュロウイルス発現系を用いてHCV全長の遺伝子を昆虫細胞で発現させたところ、蛍光抗体法や免疫沈降法で全てのHCV蛋白の発現が認められ、前駆体蛋白のプロセッシングも完全に行われていることが確認できた。次に人工肝感染実験に用いるのに適した細胞を調べる目的で以下の実験を行った。AdexCAT7を各種細胞に感染させイムノブロット法とポリメラーゼ活性を指標にしてT7ポリメラーゼの発現を確認した。調べたほとんどの細胞で、EMCVのIRESを持つpT7EMCLucが最も高い活性を示したが、唯一,FLC4細胞のみでHCVのIRESを持ったpT7HCVLucが最も高い活性を示した。このように、EMCVに比べ効率の低いHCVのIRESを持ったpT7HCVLucの活性がFLC4細胞のみで高い価を示したことは、FLC4細胞には、HCVのミニジーンRNAを特異的に安定化させ翻訳効率を上昇させる何らかの宿主因子が存在することが示唆された。単層培養での慢性C型肝炎患者血清を用いた感染実験の結果もFLC4のみHCVRNAの検出が持続したことからも考え会わせ、このFLC4細胞を人工肝の感染実験に用いることに決定した。そして高密度培養用のバイオリアクターを用いて6O日以上にわたり、安定的に細胞培養が可能であることが示されただけでなく、低温培養により細胞の増殖速度をコントロールすることに成功した。そこでこの人工肝にまず前述のC型肝炎患者血清を感染材料として用い、人工肝から流出する培養液をサンプリングしてHCVRNAをRT-PCRで検出したところ、感染開始後1-2日まではHCVRNAは陽性であったものの、それ以降陰性であった。残念ながら培養液からは感染の確証は得られなかった。現在、我々が作製した全長のクローンおよびUSAより供与されたチンパンジーに感染を成立させた感染性クローンを用いた感染実験を継続中である。
著者
永森 静志 水谷 悟 新谷 稔
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

平成8年度におけるこのプロジェクトにおける成績は、申請者らが樹立したヒト由来肝細胞を、ガラス担体(シラン)を用いたラジアルフロー型バイオリアクター(RAD)で培養すると、担体の内部や表面に細胞が3次元的配列を保ちながら増殖した。これは走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡で観察可能であった。酸素消費量やグルコース消費量から算定し10^8cells/ml-matrix以上の高密度培養が可能で、200ml容量のRADで総細胞数は2.88×10^<10>個となった。他の重要な肝機能としてのアンモニア代謝や、薬物代謝としてナファモスタットメシレートやアンチピリンについて検討し、機能していることを確認した。RAD本体の改良は、坦体の粒子や孔の大きさ、表面のコーティングなど検討したが現在の坦体に勝るものは見つかっていない。体外循環量の減量には、50ml容積のリアクターの作成と回路チューブの狭小・短縮により総体外循環量を200ml以下に減量した。また体外循環回路の改良は血漿への酸素の供給やRADの血漿流速のコントロールが必要である。協同開発者の旭メディカルとエイブルによりフォローファイバー薄膜による酸素供給システムと、RADへの流速を維持するための血漿リサイクル回路を作成した。、その制御システムの基本的設計の終わり、実用化への開発を行っている。一方RADを生体に装着した際の安全性確認のために、ブタを用いて検討を加えた。実際のヒトへの応用を考え、頚静脈にカテーテルを挿入し毎分30mlの血漿を分離、これをRADに環流した。5時間の還流経過中ブタのvital signは安定していた。一般に体外循環システムで問題となる血管拡張、降圧作用のあるbradykininの血中濃度を測定したところ、細胞培養の有無に関わらず、増加傾向を認めなかった。このシステムの生体への安全性が明らかとなった。