著者
阿部 隆之 谷 英樹 松浦 善治
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.608-615, 2009 (Released:2010-02-16)
参考文献数
27

バキュロウイルスは,環状の二本鎖DNAを遺伝子に持っている昆虫を宿主とするウイルスであり,現在,大腸菌発現系と同様にさまざまな組換え蛋白質の発現系システムとして広く汎用されている.その一方で,近年,複製はしないが,広範囲な哺乳動物細胞にも感染できることが示され,新しい遺伝子導入ベクターとしての有用性が期待されている.これまでに,筆者らは,バキュロウイルスのウイルスベクターワクチンとしての評価を検討したところ,バキュロウイルス自身に哺乳動物細胞に自然免疫応答を誘発できることを見いだした.近年同定された,自然免疫認識分子であるToll様受容体は,さまざまな病原微生物由来の構成因子を認識し,炎症性サイトカインやインターフェロンを誘発して生体防御反応に寄与することが知られている.さまざまなToll様受容体およびそのシグナルアダプター分子であるMyD88を欠損した免疫細胞内では,バキュロウイルス感染に伴う炎症性サイトカインの産生が著しく減少することが示されたが,インターフェロンの産生は正常であることが確認された.Toll様受容体非依存的にインターフェロンを産生する分子としてRNAヘリケースであるRIG-IおよびMDA5が同定され,さまざまなRNAおよびDNAウイルス感染に対するインターフェロンの発現制御に関与していることが報告されている.しかしながら,バキュロウイルスによるインターフェロンの産生はこれらRNAヘリケースにも非依存的であることが示され,既報のシグナル経路とは異なる機序にてインターフェロンの産生が制御されている可能性が示唆された.
著者
河岡 義裕 朝長 啓造 澤 洋文 松浦 善治 川口 寧 渡辺 登喜子 鈴木 信弘 高橋 英樹 長崎 慶三 川野 秀一
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

(1)計画・公募研究の推進:計画・公募研究を、研究活動支援システム、領域班会議などを通じて積極的にサポートし、計画研究とともにネオウイルス学創成に目がけた研究を推進している。高度情報処理支援として、計画研究班および公募研究班に対し、スーパーコンピュータシステム・シロカネの利用による高速処理体制を構築するとともに、シロカネ上でデータ解析プログラムの連携・共有を行った。(2)領域班会議の開催:平成30年度は、4月13~15日に高知県において第4回領域班会議、また 11月11~13日に兵庫県淡路島において、第5回領域班会議を行い、 各計画・公募研究班による未発表データを含めた進捗報告を行った。会議では、活発な議論が展開され、共同研究や技術提供が活性化されるとともに、領域内の研究者間の有機的な連携が強化された。また今年度は、 テレビ会議システムを用いて、月に一度の定例会を行い、各計画・公募研究班の研究進捗の報告などを行なうことによって、領域全体の研究の推進を図った。(3)広報活動:本領域の研究活動を国民に広く発信するため、ホームページ/フェイスブックページ/ツイッターにおいて、平成30年度は26/29/169件の記事を掲載した。フォロワー数は平成29年度と比較して、フェイスブックページは160から206名、ツイッターは152から239名に増加した。また平成30年度は、領域の研究内容の概説を掲載したニュースレターを2回発行した。さらに活発なアウトリーチ活動を行なった。
著者
野牛 一弘 梁川 良 松浦 善治 福士 秀人 喜田 宏 野田 寛
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獸醫學雜誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.691-693, 1982-08-25

北海道で1978-1980年に1278頭のミンクについて各種A型インフルエンザウイルスに対する抗体調査を行なった. 1980年の11月および12月に, それぞれ175例中35例(18%)および110例中44例 (40%) に A/Hokkaido/45/80 (H3N2) に対する抗体が検出され, 抗体陽性ミンク中48例 (64%) が 1:512 以上のHI抗体価を示した. 野外のミンクにおいてインフルエンザの流行が血清学的に明らかにされたのは今回が初めてと考えられる.
著者
赤塚 俊隆 松浦 善治 神吉 泰三郎
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

我々はC型肝炎ウイルス(HCV)の感染性RNAを接種して単一のウイルスによる感染実験に成功したチンパンジー、1535と1536のPBLをEBウイルス(EBV)でトランスフォームすることにより、HCV特異的IgG抗体産生B細胞クローンが感染後どの時点で出現するかを検討した。同時に血清のIgG抗体価も測定し比較した。その結果2頭のチンプともに、ALTの上昇がみられた20週には血中にC抗原に対するIgG抗体が出現したが、E1、E2抗体の出現は殆ど認められず、1536においてのみ45週以降になってE2抗体が出現、10週にわたる抗体価の上昇を認めた。しかしEBV-transformationの結果では、C、E1、E2いずれの抗原に対するIgG抗体産生B細胞も35週の時点で同頻度に認められた。これは54週になっても同じであった。EBV-transformationでは完全に成熟した抗体産生より分化段階の低い細胞が検出されると考えられるので、我々の結果はウイルス中和に関与すると思われるE1、E2抗体を産生するB細胞の分化が、何らかの機序により最終段階の一つ手前で押さえられていることを示していた。平成12年度は、1536において、感染後45週というかなり遅い時期に、ウイルスのE2タンパクの1つのアミノ酸に変異を生じたウイルスが出現し、その時期に一致して抗E2抗体の上昇が見られたので、そのアミノ酸変異を中心としたペプチドを合成し、ヘルパーT細胞の反応を検討した。変異アミノ酸配列のペプチドに対するヘルパーT細胞の反応が生じてE2抗体産生が引き起こされたという仮説を立てたが、結果は正常ペプチドも変異ペプチドも陰性でありその説明は成り立たなかった。更に検討を加えた結果、この45週という時期には,E2のみならず、C抗原に対してもIgM反応が急激に上昇していることが分かった。C抗体はIgGが感染初期にすでに出現上昇しており、これに遅れてIgMが出現するという、通常の免疫反応とは極めて異なる抗体反応パターンを示していた。この事は変異ウイルスが出現した時期に一致して宿主の免疫系にも新たな刺激が生じ、CとE2に対するIgM抗体産生が起こったことを示唆している。変異ウイルス自体には新たな抗原性はない可能性がので、変異ウイルスの挙動か何かにそれ以前のウイルスとは違うものがあって、それが免疫系の抗原認識に影響を与えたことが考えられる。その後我々は、この2頭のチンパンジーの感染後8週のB細胞がHCV抗原を発現していることをみいだした(未発表)。現在この抗原発現の詳細を検討しており、次に感染後期でのB細胞におけるそれと違いがないかを検討する予定である。
著者
保井 孝太郎 竹上 勉 小島 朝人 松浦 善治 宮本 道子 木村 純子 KIMURA-KURODA Junko 荻本 真美
出版者
(財)東京都神経科学総合研究所
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1989

日本脳炎ウイルス(JEV)が属するフラビウイルスは、世界中に70種にのぼるウイルス種が存在しており、総合的で有効な対策が待たれている。現在黄熱病ウイルス、JEV、ダニ媒介脳炎ウイルスに対する生および不活化ワクチンが使用されているが、それぞれに問題点を含んでおり新しい形のワクチンの開発が要請されている。そこで、組換えDNA技術を用いてJEVに対する新しいワクチンの開発をはかり、他のフラビウイルスに対するワクチンの開発の基盤となる技術的・方法論的知見を提供することを目的として、研究を行なった。組換えバキュロウイルスおよびワクチニアウイルスを用いた研究によって、以下のことが明らかになった。1,ウイルス粒子エンベロ-プに存在する構造蛋白E,preM,Mは、ポリプロテインとして合成された後、細胞の酵素によって切断プロセシングされて完成する。2,これらの蛋白の上流にはシグナル配列があり、正常な抗原構造を持った構造蛋白を発現させるためには、正常にプロセシングされることが必要である。3,ウイルス粒子上のE蛋白は、E蛋白単独またはpreM,M蛋白とともにオリゴマ-を形成しており、モノマ-状態のE蛋白に比べて抗原的に安定であり免疫原性も高い。4,E蛋白をオリゴマ-粒子として細胞外に大量に産生・放出させ得る、組換えウイルス発現系を開発することができた。5,蛋白上の中和抗体エピト-プの位置を明らかにできた。6,E蛋白の一部分と融合し、中和などの特定にエピト-プのみを含むHBsAg粒子を産生する系を、開発することができた。以上の成果から、JEVを初めとするフラビウイルスの新しい人工コンポ-ネントワクチンを開発するための基本的な方法を提示することができたと言える。
著者
宮村 達男 吉田 弘 清水 博之 PHAN Van Tu 米山 徹夫 萩原 昭夫 松浦 善治 武田 直和 RADU Crainic DELPEYROUX F CRAINIC Radu
出版者
国立感染症研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ポリオウイルスは代表的なエンテロウイルスであり、経口感染によりヒトからヒトへと伝播する。そしてヒトのみが唯一の感受性自然宿主である。糞口感染が日常的におこらないような衛生状態が恒常的に保たれれば、ポリオの伝播は次第に絶ち切られ、ポリオという疾患は消滅するはずである。一気にポリオを根絶する為には、更に強力な免疫計画とサーベイランスが必要であり、この目的をもって世界レベルの根絶計画がWHOの強力な指導のもとにスタートした。我が国の属する西太平洋地域では野生株ポリオウイルスは激減しているが、本研究は最後までウイルスが残っているベトナムをその対象領域として、野生株ポリオウイルスが弱毒性ワクチン株に置き換えられてゆく最後の過程を検証することにある。1997年、ベトナムでは1例、隣国のカンボジアでは8例の野生株が分離された。これらは現地で急性弛緩性マヒ(Acute Flaccid Paralysis:AFP)を生じた小児の糞便検体が当研究室に送付され、ウイルス分離、同定、型内鑑別が行われたものである。そしてこれらの分離株のVP-1領域の塩基配列を決定し、これまで周囲で分離されていた野生株と比較した。その結果、インドシナ半島で複数存在していた株のうちの一つのみが残っていることがわかった。北ベトナムでAFP例から分離されたウイルスは、ここ2年間、すべてワクチン由来株であったが、この1年はワクチン株の分離も減少している。一方、南ベトナムの国家ラボで得られた成績と日本のラボでの成績には、一部不一致がみられた。その問題点を解決する手段として、野本らにより樹立されたポリオウイルスのレセプターを発現しているマウス細胞株(Lα細胞)を用いた、ポリオウイルス選択的なウイルス分離が提唱され、実行されつつある。かくして、1997年3月19日のカンボジアの1例を最後として、野生株は分離されておらず、これが最後の例となるか、更なる強力な監視が必要である。
著者
斎藤 泉 千葉 丈 松浦 善治 宮村 達男
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

日本の慢性肝炎(120万人)の半数以上、最近の肝細胞癌全体(1万8千人/年)の半数近くがC型肝炎ウイルス(HCV)によるものと考えられている。クロ-ン化したウイルスcDNAを用いてHCV遺伝子産物の発現系・検出系を開発し、肝炎・肝癌組織中で発現するHCV遺伝子産物を検討することにより、このウイルスによる肝炎・肝癌発症機構解明の基礎を確立するのが本研究の目的である。1.HCVの構造領域cDNAを組み込んだバキュロウイルス発現ベクタ-やプラズミドベクタ-をサル由来細胞株に導入することによりHCVの構造蛋白を発現させた結果、HCVのコア蛋白とエンベロ-プ蛋白の発現と同定に成功した。コア蛋白は糖鎖のつかない22kdの蛋白で、p22と命名し、エンベロ-プ蛋白は糖鎖を持つ35kdの蛋白でgp35と命名した。また粗精製したp22蛋白を用いてHCVのコア蛋白に対する抗体(コア抗体)を検出する実用的なELISAを作製した。2.組換えバキュロウイルスにより産生されたコア蛋白などを抗原として、構造蛋白の検出に用いられるモノクロ-ン抗体を作製した。3.非B型肝癌の8例において、癌部と非癌部からRNAを抽出し、PCR法によりHCVRNAを検出した結果、少なくとも一部の非B型肝癌組織からHCVRNAが検出されることが分かった。本研究によりHCV構造蛋白の特異抗体作製への道が開かれ、患者組織におけるウイルス抗原の検出への基礎が開けたといえよう。一部の肝癌組織からHCVRNAが検出されることは、持続感染状態にあるHCVが細胞の癌化に何等かの役割を果たしている可能性を示唆するが、その証明には今後の定量的検討が必要であろう。
著者
見上 彪 松浦 善治 川喜田 正夫 児玉 洋 喜田 宏 永井 美之 小沼 操
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本研究はニュ-カッスル病ウイルス(NDV)の生態と病原性を総合的に解明することを目的とする。そこで病原性に深く関るNDVのヘモアグルチニンーノイラミニダ-ゼ蛋白(HN)ならびに膜融合蛋白(F)をコ-ドする遺伝子をリコンビナントワクチニアウイルス(rVV),リコビナント鶏痘ウイルス(rFPV)あるいはバキュロウイルス(BV)に捜入し,発現HNあるいはFの生物性状、免疫原性などの検討し,以下の成績を得た。1)。NDVのHNを発現するrVVを作出し,NDV感染防御におけるHNの役割を検討した。8×10^6PFUの生rVVを接種した鶏は,すべて強毒NDVによる致死的に耐過した。一方同量の不活化rVVを接種した鶏は,同様の攻撃により死亡した。攻撃耐過鶏はHNに対する抗体産生が攻撃前あるいは攻撃前あるいは攻撃後に認められたのに対して,非耐過鶏では認められなかった。2)。FPVのチミジンキナ-ゼ遺伝子内にVV由来のプロモ-タ-P.7.5制御下にNDVのHNを発現するrFPVを作出した。このrFPVはNDVのHNに特異的なウイルス中和活性のある単クロ-ン性抗体と反応し,SDSーPAGE上でNDV HNとほぼ同じ移動度を示すHNを産生した。3)。NDV宮寺株のHNをコ-ドする _cDNAを組みこんだBVは感染細胞表面にHNを発現した。このrHNはSDSーPAGE上でNDV感染細胞で発現するHNと同じ移動度を示し,ツニカマイシ処理により,そのアミノ酸配列から予想される分子量とほぼ同じ大きさとなった。4)。NDV F蛋白の全長あるいはC端のアンカ-部位を除いた遺伝子を組み込んだ。これらのうち強毒株由来の全長の遺伝子を発現したもののみ下蛋白の前駆体がF_1F_2サブユニットに解裂し,これらはジスルフィド結合でヘテロダイマ-を形成していた。
著者
永森 静志 松浦 善治 宮村 達男 松浦 知和 蓮村 哲
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

まずはじめに、人工肝感染実験に用いる感染性クローンの構築のため、ヒトに輸血後肝炎を発症させ、しかもチンパンジーに対する感染価も高い、一人のC型肝炎患者血清より完全長のcDNA(NIHJ1)を作製した。このNIHJ1のバキュロウイルス発現系を用いてHCV全長の遺伝子を昆虫細胞で発現させたところ、蛍光抗体法や免疫沈降法で全てのHCV蛋白の発現が認められ、前駆体蛋白のプロセッシングも完全に行われていることが確認できた。次に人工肝感染実験に用いるのに適した細胞を調べる目的で以下の実験を行った。AdexCAT7を各種細胞に感染させイムノブロット法とポリメラーゼ活性を指標にしてT7ポリメラーゼの発現を確認した。調べたほとんどの細胞で、EMCVのIRESを持つpT7EMCLucが最も高い活性を示したが、唯一,FLC4細胞のみでHCVのIRESを持ったpT7HCVLucが最も高い活性を示した。このように、EMCVに比べ効率の低いHCVのIRESを持ったpT7HCVLucの活性がFLC4細胞のみで高い価を示したことは、FLC4細胞には、HCVのミニジーンRNAを特異的に安定化させ翻訳効率を上昇させる何らかの宿主因子が存在することが示唆された。単層培養での慢性C型肝炎患者血清を用いた感染実験の結果もFLC4のみHCVRNAの検出が持続したことからも考え会わせ、このFLC4細胞を人工肝の感染実験に用いることに決定した。そして高密度培養用のバイオリアクターを用いて6O日以上にわたり、安定的に細胞培養が可能であることが示されただけでなく、低温培養により細胞の増殖速度をコントロールすることに成功した。そこでこの人工肝にまず前述のC型肝炎患者血清を感染材料として用い、人工肝から流出する培養液をサンプリングしてHCVRNAをRT-PCRで検出したところ、感染開始後1-2日まではHCVRNAは陽性であったものの、それ以降陰性であった。残念ながら培養液からは感染の確証は得られなかった。現在、我々が作製した全長のクローンおよびUSAより供与されたチンパンジーに感染を成立させた感染性クローンを用いた感染実験を継続中である。