著者
安田 進 石川 敬祐 村上 哲 北田 奈緒子 大保 直人 原口 強 永瀬 英生 島田 政信 先名 重樹
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2016年熊本地震により阿蘇のカルデラ内では地盤が帯状に陥没するグラーベン(帯状の陥没)現象が発生し、家屋、ライフラインなどが甚大な被害を受けた。このメカニズムを知り復旧・対策方法を明らかにするため平成29年度から3年間の計画で研究を始めた。平成29年度は、まず、現地踏査や住民からのヒアリングなどを行って被災状況の把握を行った。その結果、広い範囲で大規模に陥没が発生していること、その範囲はカルデラ内に約9000年前の頃に形成されていた湖の範囲にかなり一致することが分かった。次に広域な地盤変状発生状況を調べるため、熊本地震前後の複数の陸域観測衛星画像(合成開口レーダー画像)を使って干渉SAR画像から地盤変動量(東西・南北・垂直方向の3成分)を求め、それを基に検討を行った結果、陥没被害が甚大だった狩尾、内牧、小里、的石などの地区では数100mから2㎞程度の区域内で最大2~3mもの変位が発生したことが明らかになった。この局所的な変位によって水平方向の引張り力が作用し、帯状の陥没が発生したのではないかと考えられた。次に、既往の地盤調査結果を収集整理し、また、表層地盤状況を連続的に調べるため表面波探査を行った。その結果、陥没区間のS波速度は遅く、水平方向の引張り力で表層が緩んだことが明らかになった。一方、深い地盤構造を調べるために微動アレイ観測を行ったところ、陥没区間では数十mの深さまでS波速度が遅い軟弱層が堆積していると推測された。そこで、より詳細に調べるために4カ所でボーリングを行った結果、陥没区間の直下では17m~50mの深さに湖成層と推定される軟弱粘性土層が堆積していることが判明した。また、湖成層下面はお椀状に傾いていた。したがって、この湖成層が地震動によって急速に軟化してお椀の内側に向かってせん断変形し、その縁の付近で引張り力が働いて陥没が発生した可能性が浮上してきた。