著者
先名 重樹 長谷川 信介 前田 宜浩 藤原 広行
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.5_143-5_162, 2012 (Released:2012-11-07)
参考文献数
15
被引用文献数
2 7 1

東北地方太平洋沖地震では、東京湾岸だけでなく、利根川流域においても多数の液状化現象が発生し、場所によっては、ライフラインの寸断、住宅基礎の破壊や不同沈下など、甚大な被害が発生した。本報告では、利根川流域における液状化被害の全体像をとらえることを目的として、茨城県・千葉県内の主に利根川流域における計29市町について現地調査を実施した。調査内容は、各市町の情報を収集したのち、現地においての写真撮影、住民へのヒアリング等を実施した。利根川流域における液状化の特徴として、激しい液状化が見られたのは、ほとんどが海や池、河川を埋め立てた人工地盤であった。しかしながら、ごく一部では、自然地盤でも液状化現象が見られた。また、本報告では、参考までに、関東地方全体の液状化地点情報と微地形区分毎の液状化発生頻度および確率についても計算し、結果の検討を行った。今回の地震における液状化は、過去の液状化被害のあった地震と比べて、微地形区分に基づく液状化発生確率が、非常に大きくなることが分かった。
著者
若松 加寿江 先名 重樹 小澤 京子
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1_43-1_62, 2017 (Released:2017-02-27)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

本論文は, 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による液状化発生地点の分布の特徴を俯瞰すると共に, 液状化の発生と地震動強さ, 微地形区分, 土地条件の関係について検討している.液状化の発生は, 東北・関東地方の1都12県193市区町村に及んだ.液状化の広がりを250mメッシュ単位でカウントすると合計で8680メッシュとなった.東北地方より関東地方の方が圧倒的に多く約12倍である.液状化発生地点は, 東京湾岸地域や利根川, 阿武隈川, 鳴瀬川などの規模が大きい河川の沿岸地域に集中していた.本震の震央から最も遠い液状化地点は, 神奈川県平塚市で震央距離約440kmである.地震動強さとの関係を調べた結果, 液状化メッシュの約95%が推定震度5強以上, 98%が140cm/s2以上, 99%が15cm/s以上の地域であった.震度5強以上の地域における微地形区分ごとの液状化発生率は, 埋立地, 砂丘, 旧河道・旧池沼, 砂州・砂礫州, 干拓地の順に高かった.東北地方と関東地方で液状化の発生率等に大きな差異が生じた理由を探るために, 液状化発生地点において「宅地の液状化可能性判定に係る技術指針」に示された二次判定手法により液状化被害の可能性の判定を行った.その結果, 関東地方の方が東北地方に比べて液状化被害を受けやすい地盤が多いことが分かった.
著者
長 郁夫 先名 重樹
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.86-96, 2016 (Released:2016-06-08)
参考文献数
32
被引用文献数
1 10

著者らの目標は、地質・地盤に関連するさまざまな社会的ニーズに対応して、できる限り高密度・高分解能で定量的な地下S波速度構造の情報を提供することである。S波速度は地盤の揺れやすさや固さに直結する物性値なので、例えば、地震災害軽減のための地震ゾーニングの高精度化等に寄与できる。その一環として、半径0.6 mの極小アレイを用いて常時微動を15分間観測するだけで数mから数十mの深さのS波速度を探査する観測・解析システムを構築中である。開発のポイントは、アレイ観測・解析の徹底的な簡易化、客観化とそれによる自動化、品質管理である。構築中のシステムにより、今後取得されると期待される膨大な量の微動データに対応する。
著者
若松 加寿江 先名 重樹
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.2_25-2_44, 2015 (Released:2015-05-25)
参考文献数
42
被引用文献数
7 10

本論文は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって関東地方に発生した液状化とその被害、および液状化地点の旧地形、微地形区分、造成履歴、液状化履歴などについて述べている。関東地方で液状化が確認された市区町村は、1都6県130市区町村に及んだ。液状化発生地点は、東京湾岸地域および霞ヶ浦沿岸、利根川とその支流の小貝川・鬼怒川、那珂川、久慈川、涸沼川、荒川などの大河川の沿岸に集中しており、土地の埋め立て・盛土造成、砂礫や砂鉄の採掘履歴、河道の変遷、洪水実績など、液状化の発生が土地の改変履歴や旧地形と関係が深いことが分かった。関東地方全域の計測震度5.0(震度5強)以上の地域において250mメッシュ毎に算出した微地形区分毎の液状化発生率は、埋立地で最も高く25.7%、次いで旧河道、三角州・海岸低地、干拓地、砂丘、砂州・砂礫州の順となった。東北地方で最も液状化発生率が高かった自然堤防と、関東地方の埋立地を比べると、関東地方の発生率の方が約4倍高くなっていた。
著者
先名 重樹 松山 尚典 神 薫 藤原 広行
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

1.はじめに防災科研では、南関東全域においてボーリングデータ等の地質・地盤資料に基づく初期地質モデルの構築と、そのモデルを基に地震記録と微動観測記録により、物性値(主にS波速度)を調整し、周期・増幅特性を考慮した浅部・深部統合地盤構造モデルの試作を行ってきている。これらは広域地盤モデル構築手法の標準化の取組として、地震本部にて「地下構造モデル作成のレシピ」を構築している。さらに、地盤モデル高度化の検討として、詳細な地盤モデル(詳細地盤モデル)の構築時に必要となる、活断層近傍における地震動評価やモデル作成時の地盤の不整形性の検討および強震動時の非線形特性を評価できる地盤構造モデルの構築等の構築を検討している。本検討では、南関東地域に存在する深谷断層帯・綾瀬川断層帯を例として詳細地盤モデル構築の検討結果について報告する。2.断層帯周辺の既往調査と地質構造の概要深谷断層帯・綾瀬川断層は、地震本部の長期評価見直しで関東平野北西縁断層帯から変更されている。この断層自体の活動度は低いが、連動するとM8クラスの地震が発生すると予測される。深谷断層は、明瞭な重力異常分布境界となっている。なお、深谷断層については杉山・他(2009)により、反射法地震波探査、ボーリング、トレンチ等の調査を行われており、断層の構造や活動性の検討がなされている。反射法探査や既往の反射断面の解釈により、深谷断層から北東側では、基盤岩上面が深度3km付近まで落ちていること、その上に中新世以降の地層が厚く堆積していることが確認されている。深谷断層は、南側の平井断層、櫛引断層と合わせて地質構造の形成過程が検討されている。3.調査概要上記の断層近傍の地盤構造モデルを構築するために、地震観測および微動観測を実施した。観測は断層を挟むように5測線を展開し、単点微動約200m間隔、極小アレイ1km間隔、大アレイが2km間隔で実施している。大アレイの位置には地震観測も実施した。5測線のうち1測線は、杉山他(2009)における反射法地震波探査断面の測線近傍で実施している。なお、断層の北東側は沖積低地、南東側がローム台地で構成されている。(1)地震観測断層近傍の14か所において臨時地震観測を実施した。観測した記録について、フーリエスペクトルを地点ごとにまとめたところ、地震によって異なる特性が確認できるが、地点ごとにスペクトルに一定の傾向が確認出来た。そこで、各地点とのスペクトル比を取ったところ、各地点ともスペクトル比は地震に寄らず安定しており、サイト増幅特性として利用できる。(2)常時微動観測微動観測の結果、単点のH/Vスペクトルのピーク周期は、断層の両側で異なる傾向を示す。断層の落ち側(北東側)では、上がり側(南西側)に比べて、H/Vスペクトルのピーク周期が周期の長い方へシフトする(周波数が小さくなる)傾向が確認出来た。微動探査(アレイ)地点に近い、地震動のR/Vスペクトルと比較したところ、低周波数域のスペクトル特性も調和的であることを確認している。微動アレイ解析で得られたS波速度構造とJ-SHISの深部地盤モデルのS波速度構造を比較すると、地震基盤相当のVs=3.2km層の上面は、今回の結果の方が全体的に約500m程度深くなっている。一方で、Vs=1.5Km層の上面は、断層落ち側で300~500m程度浅くなっている。また、Vs=0.9km層の上面は、断層落ち側で最大で900m程度深くなることが分かった。工学的基盤以浅の地盤構造では、断層落ち側の断層直近でVs=0.3kmないし0.2km以下の層が厚い(十数m)。同様の傾向は、現在作成中の防災科研の南関東地盤モデルでも確認されている。断層周辺のボーリングデータでみると、本数が少ないので、詳細は不明であるが、断層落ち側の断層直近でN値の小さい完新統(粘性土層など)が厚くなっている傾向があるようにみえ、前述のS波速度構造分布と調和的である。4.まとめと今後の検討本研究の結果、断層の落ち側では、上り側に比べて微動のH/Vスペクトルの周波数が小さくなる傾向が明瞭で双方の構造の変化が比較的良く確認でき、観測された地震動のR/Vスペクトルも同様の特性を示すことがわかる。また、深谷断層を挟む両側の地盤では、スペクトル特性、S波速度構造にも相違が明瞭にみられ、ボーリングデータからも判別できることから、この断層においては地震観測記録・微動記録による詳細地盤モデルの構築・検証は十分に可能であることが分かった。今後、地震観測データを用いた、スペクトルインバージョン等による、断層両側の地盤での地震動の増幅特性の定量的な検討および、ボーリングデータから読み取れる地下浅部の地質構成、地質構造や重力探査結果をふまえた浅部・深部地盤の速度構造モデルの作成を試み、観測された地震動の作成した地盤モデルを用いた検証や工学的基盤の不整形性の影響評価を実施する予定である。
著者
先名 重樹 小澤 京子 杉本 純也
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.2_90-2_108, 2021

<p>2011年東北地方太平洋沖地震では大規模で甚大な被害をもたらした液状化が発生したが,それ以降も,2016年熊本地震や2018年北海道胆振東部地震など,最大震度7を観測し,広い範囲で震度5強以上の強い揺れに見舞われ多くの地域で液状化が発生した.本研究では,詳細な航空写真画像による液状化判定が可能で,震度6弱以上を観測した,2011年東北地方太平洋沖地震,2016年熊本地震,2016年鳥取県中部の地震,2018年大阪府北部の地震,2018年北海道胆振東部地震の5つの地震の液状化発生地点の情報に基づき,4分の1地域メッシュ(以下,250mメッシュと呼ぶ)単位に基づく液状化発生率や250mメッシュ内の液状化面積を考慮した液状化面積率を推定し,液状化発生率と面積率の積による液状化危険率の推定式を提案した.</p>
著者
若松 加寿江 先名 重樹
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.2_124-2_143, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
42
被引用文献数
2 1

本論文は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって東北地方に発生した液状化とその被害、および液状化地点の土地履歴、微地形区分について述べている。東北地方で液状化が確認された市区町村は、東北6県63市区町村に及んだ。最も液状化が多く発生したのは、宮城県、次いで福島県、岩手県である。青森県、秋田県、山形県でも局所的に液状化被害が起きた。液状化発生地点は、北上川、鳴瀬川、吉田川、江合川、阿武隈川などの大河川の沿岸に集中していた。東北地方は、関東地方に比べて埋立地が少なく、海岸部は津波で浸水したこともあり、埋立地で確認された液状化は少なかった。仙台市では丘陵地帯の造成宅地の谷埋め盛土部分での液状化被害も多かった。宮城県の大崎平野には池沼の干拓地が多く存在するが、これらの旧池沼には液状化の発生は確認されなかった。
著者
安田 進 石川 敬祐 村上 哲 北田 奈緒子 大保 直人 原口 強 永瀬 英生 島田 政信 先名 重樹
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2016年熊本地震により阿蘇のカルデラ内では地盤が帯状に陥没するグラーベン(帯状の陥没)現象が発生し、家屋、ライフラインなどが甚大な被害を受けた。このメカニズムを知り復旧・対策方法を明らかにするため平成29年度から3年間の計画で研究を始めた。平成29年度は、まず、現地踏査や住民からのヒアリングなどを行って被災状況の把握を行った。その結果、広い範囲で大規模に陥没が発生していること、その範囲はカルデラ内に約9000年前の頃に形成されていた湖の範囲にかなり一致することが分かった。次に広域な地盤変状発生状況を調べるため、熊本地震前後の複数の陸域観測衛星画像(合成開口レーダー画像)を使って干渉SAR画像から地盤変動量(東西・南北・垂直方向の3成分)を求め、それを基に検討を行った結果、陥没被害が甚大だった狩尾、内牧、小里、的石などの地区では数100mから2㎞程度の区域内で最大2~3mもの変位が発生したことが明らかになった。この局所的な変位によって水平方向の引張り力が作用し、帯状の陥没が発生したのではないかと考えられた。次に、既往の地盤調査結果を収集整理し、また、表層地盤状況を連続的に調べるため表面波探査を行った。その結果、陥没区間のS波速度は遅く、水平方向の引張り力で表層が緩んだことが明らかになった。一方、深い地盤構造を調べるために微動アレイ観測を行ったところ、陥没区間では数十mの深さまでS波速度が遅い軟弱層が堆積していると推測された。そこで、より詳細に調べるために4カ所でボーリングを行った結果、陥没区間の直下では17m~50mの深さに湖成層と推定される軟弱粘性土層が堆積していることが判明した。また、湖成層下面はお椀状に傾いていた。したがって、この湖成層が地震動によって急速に軟化してお椀の内側に向かってせん断変形し、その縁の付近で引張り力が働いて陥没が発生した可能性が浮上してきた。