著者
河内 敦
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

われわれが先に開発した[o-(フルオロジメチルシリル)フェニル]リチウムとジクロロゲルミレン・ジオキサン錯体との反応により, ゲルマニウム上にo-(フルオロジメチルシリル)フェニル基を二つ有するベンゾシラゲルマシクロブテン1が生成した。化合物1にテトラヒドロピラン中, [2. 2. 2]クリプタンド存在下でフッ化カリウムを作用させると, フッ化物イオンがケイ素原子上を攻撃することでゲルマニウムーケイ素結合の切断が起こり, ゲルミルポタシウム2が選択的に生成した。X線結晶構造解析の結果, 2は求核部位であるゲルミルアニオンの周りを求電子部位であるフルオロシラン三つが取り囲むという特異な構造を有していることが明らかとなった。このように求核部位と求電子部位とが接近していながら, 反応せずに安定に存在していることは驚くべきことであり, 求核性・求電子性の本質を明らかにする上で重要な知見といえる。さらに, 2にBF_3・Et_2Oを作用させると今度は分子内求核置換反応が促進され, ベンゾシラゲルマシクロブテン1が再生した。これは, ホウ素原子の空のp軌道とフッ素原子の非共有電子対とが相互作用することで, σ*(Si-F)軌道のエネルギーレベルが低下し, ケイ素原子上が求核置換反応を受けやすくなったためと説明できる。以上のようにわれわれは, 14族元素間結合の切断-再結合を制御することにより, ベンゾシラゲルマシクロブテン環を可逆的に開環-閉環させることに成功した。このような14族元素間結合の可逆的な切断-再結合反応は過去に類を見ないものである。