著者
今田 康大 高田 雄一 高橋 貢 河治 勇人 﨑山 あかね 宮本 重範
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101810, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 頸部痛患者に対しての治療は頸椎へのアプローチが一般的であるが、上位胸椎モビライゼーションが頸部痛や頸椎可動域を改善すると報告されており治療の一手技として行われている。しかし、一般的に行われる頚椎間歇牽引療法と上位胸椎モビライゼーションが頸部痛患者に与える影響について比較検討した報告はない。本研究の目的は、頚椎間歇牽引療法のみの治療と、頚椎間歇牽引療法と上位胸椎モビライゼーションを併用した治療の即時効果を頸椎可動域、頸部運動時痛、自覚的改善度で治療前後と群間で比較しその効果を検討することとした。【方法】 対象は頸部運動時痛を有する頸部痛患者16名(男性5名、女性11名)で年齢54.3±12.5歳、身長157.4±8.7cm、体重55.6±17.8kgであった。対象者は頚椎間歇牽引療法のみ群(牽引群)と頚椎間歇牽引療法+上位胸椎モビライゼーション併用群(胸椎mobi併用群)に無作為で群分けした。頚椎間歇牽引療法はTractizer TC-30D(ミナト製)を使用し、端坐位にて牽引力を体重の1/6、牽引10秒、休止10秒の計10分間施行した。胸椎モビライゼーションは対象者を腹臥位としTh1-6胸椎棘突起を後方から前方へKaltenborn-Evjenth consept gladeⅢの強度で各分節30秒間ずつ同一検者が行った。両群ともに治療介入前後で端坐位にて頸椎自動屈曲・伸展・側屈・回旋可動域を日本整形外科学会可動域測定に基づきゴニオメーターにて測定した。さらにその際頸椎自動運動時の頸部痛をVisual analog scale(VAS)にて測定した。また治療介入後自覚的改善度を日本語訳したThe Grobal Rating of Change(GROC:-7ものすごく悪くなった~0変わらない~+7ものすごく良くなった)にて聴取した。統計学的解析はSPSSver.11を使用し、治療介入前後比較は両群の頸椎可動域とVASをWilcoxonの符号付き順位検定にて行い、群間比較は対象者の基本情報と頸椎可動域とVAS及びGROCをMann-Whitney 検定にて行った。さらにGROCと頸椎可動域及びVASの変化との関係をSpearmanの相関係数にて調査した。有意水準は全て5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、本研究目的と方法と手順やリスク及び個人情報の取り扱いについて口頭及び書面にて説明し同意を得た。【結果】 対象者は牽引群8名、胸椎モビライゼーション併用群8名で性別、年齢、身長、体重に群間に有意差はなかった。介入前後比較(介入前、介入後)では牽引群の頸椎伸展VAS(47.5±23.4mm、40.5±24.8mm)で有意差がみられ、胸椎mobi併用群の頸椎伸展可動域(53.1±8.1度、59.6±7.0度)、右回旋可動域(60.5±17.8度、69.4±11.6度)と頸椎伸展VAS(40.1±34.0mm、23.5±29.8mm)、右側屈VAS(24.9±18.2mm、15.4±14.1mm)、右回旋VAS(19.0±21.1mm、6.8±9.4mm)で有意差がみられた。治療の群間では頸椎可動域、VAS、GROCに有意な差はみられなかった。GROCと頸椎可動域及びVASの変化の関係性はGORCと頸椎伸展VASが中等度の負の相関(r=0.69)で最も強くみられた。【考察】 本研究では両群間差がみられず胸椎モビライゼーションと頚椎間歇牽引療法に治療的な効果の差がみられなかったが、治療前後比較では頚椎間歇牽引療法のみの治療で頸椎伸展VASの軽減はみられ、さらに上位胸椎モビライゼーションを併用することにより頸椎可動域(伸展・右側屈・右回旋)の増加がみられた。またGROCと頸椎伸展VASに最も強い相関がみられたことから頸椎伸展運動の改善が患者の自覚的改善度を増加させることが示唆された。胸椎mobi併用群が伸展可動域と伸展VASの改善を示したことからも胸椎モビライゼーションは頸部痛を主観的及び客観的両面で改善させる可能性があると考えられる。今後は本研究の限界である胸椎モビライゼーションによる頸椎可動域や疼痛の変化の要因の究明や、疾患や痛みの評価を詳細に行うことでより効果的な頸部痛治療法を検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 頸部痛患者に対する頚椎間歇牽引療法と上位胸椎モビライゼーション併用群は頚椎間歇牽引療法のみの治療よりも即時的に主観的及び客観的に頸部運動時痛を改善し得る。