著者
遠藤 敦士 今田 康大 竹井 仁
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.67-74, 2018 (Released:2018-04-20)
参考文献数
22
被引用文献数
1

【目的】表面筋電図を用いて,非荷重位および荷重位での中殿筋の3 線維(前・中・後部線維)の作用を比較することを目的とした。【方法】対象は健常成人男性20 名とし,非荷重位の課題では,股関節外旋運動と内旋運動時の筋活動を計測した。荷重位の課題は,左片脚立位での右側骨盤への抵抗(抵抗なし,外転,外旋,外転かつ外旋,内旋,外転かつ内旋)に対する左側の静止性収縮とし,各条件での筋活動を計測した。【結果】非荷重位の内旋運動では前部線維が,外旋運動では後部線維が最も高い活動を示した。荷重位では外旋条件のみ,後部線維が前部線維と比較して高い活動を示した。また後部線維の筋活動は条件間で有意差はなかった。【結論】中殿筋各線維は非荷重位・荷重位ともに,運動方向により異なる作用を有することが示された。一方荷重位での後部線維は,運動方向によらず一定に活動することが明らかとなった。
著者
布施 彩音 今田 康大 大野 智貴 若林 敏行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-105_2-H2-105_2, 2019

<p>【症例紹介】</p><p>&nbsp;症例は年齢17歳、性別男性、部活動はバレーボールであった。病歴は3年程前より明らかな誘因なく、両膝関節外側に疼痛が出現、他院にて成長痛疑いで経過観察していた。運動中の痛みは顕著ではなかったことから運動を継続していたが、1年程前から疼痛頻度が増加し、運動後には歩けない程の痛みを呈すようになった為、当院を受診した。主訴は「膝を曲げ伸ばしすると外側に痛みが出る」、Hopeは「日常生活での痛みをなくしたい。6ヵ月後の引退試合に痛みなく出場したい」であった。</p><p>【評価とリーズニング】</p><p>医師診察としてMRIにて半月板損傷、靭帯損傷、軟骨損傷は除外され、腸脛靭帯炎の診断で理学療法開始となった。初回介入時、両側の膝蓋骨下極から傍外側にかけて腫脹、熱感が認められたが、膝蓋跳動は陰性であった。非荷重位での膝関節完全伸展位から約30°屈曲時に膝蓋骨の傍外側でクリックと同時に疼痛を認め、同部位の圧痛も確認できた。Active、Passive両者ともクリック、疼痛程度に変化はないが、上記以外の角度では症状は見られず、安静時痛、夜間痛も認めなかった。部活後、長距離歩行後(1km程度)など運動後のNRS(右/左)は10/10と著明な疼痛を訴えていた。右側に関しては歩行時にひっかかり感も訴えており、日常生活にも支障があった。また疼痛の出現頻度も右側に多く認められた。静的アライメントは大腿、下腿外旋位でわずかに膝内反位、膝蓋骨外上方偏位、外側傾斜を呈しており、膝蓋骨の内下方への動きが制限されていた。膝関節の可動域は屈曲130°/135°、伸展−5°/-5°でエンドフィールは軟部組織性であった。Grinding test、Ober test、Ely test、SLRは全テスト両側で陽性となったが左右差は無かった。</p><p>クリニカルリーズニング:外側滑膜ヒダ障害と診断された先行報告と今回の症状、疼痛部位が類似していたことから、クリックは外側滑膜ヒダが膝蓋大腿関節に挟み込まれることで生じており、これが疼痛を惹起している原因だと考えた。さらに膝蓋骨が外上方偏位、外方傾斜を呈していることで膝蓋骨傍外側に、より圧縮ストレスが生じていると考え、徒手的に膝蓋骨を内下方へ誘導したところ、わずかにクリックが減少した。これらのことから膝蓋骨のマルアライメント修正することにより症状を軽減できるのではないかと考えた。</p><p>【介入内容および結果】</p><p>介入は週1回の外来理学療法を実施した。治療介入はまず疼痛誘発の原因と思われた膝蓋骨のマルアライメントを中心に理学療法を実施した。具体的には膝蓋骨傍外側を中心に超音波を実施し、炎症が強い時期には非温熱にて炎症緩和を、炎症緩和後は温熱にて膝蓋骨周辺組織の伸張性の改善を図った。その上で外側膝蓋支帯、膝蓋下脂肪体周囲のリリース、膝蓋骨のモビライゼーション、腸脛靭帯-外側広筋間のリリースを実施し膝蓋骨の外側傾斜、外方偏位の修正、内下方への可動域制限の改善を図った。また膝蓋骨の内下方への誘導を目的にテーピングを貼付したところ、歩行時の疼痛がわずかに減少したことから、日常生活、部活の際に貼付するよう指示した。その結果、介入から2ヵ月程で膝蓋骨外側の腫脹が軽減し、クリック、疼痛の程度も軽減した。介入開始から4か月ではNRS(右/左)は6/1となり、運動後の疼痛出現頻度も減少した。過度な運動後は疼痛が出現するものの、直後のアイシング、セルフケアにより疼痛自制内でコントロール可能となった。本人の希望であった引退試合に出場することもでき、日常生活にもほぼ支障がなくなったため、外来理学療法終了とした。</p><p>【結論】</p><p>先行報告において外側滑膜ヒダ障害は、膝関節30〜75°で膝蓋骨傍外側にクリックを伴う疼痛が出現するとされており、本症例の症状と類似していた。外側滑膜ヒダ障害は非常に稀であり、過去に保存療法で症状が軽減した報告は見当たらない。診断には関節鏡検査でのみ確定診断が得られるが、本人が希望しなかったため今回確定診断には至らなかった。しかし膝蓋骨のマルアライメントを修正したことで症状が軽減したことから、外側滑膜ヒダ障害と疑われる症例に対し理学療法の有効性が示された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に従い対象者には口頭及び文書で同意を得た。</p>
著者
今田 康大 高田 雄一 高橋 貢 河治 勇人 﨑山 あかね 宮本 重範
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101810, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 頸部痛患者に対しての治療は頸椎へのアプローチが一般的であるが、上位胸椎モビライゼーションが頸部痛や頸椎可動域を改善すると報告されており治療の一手技として行われている。しかし、一般的に行われる頚椎間歇牽引療法と上位胸椎モビライゼーションが頸部痛患者に与える影響について比較検討した報告はない。本研究の目的は、頚椎間歇牽引療法のみの治療と、頚椎間歇牽引療法と上位胸椎モビライゼーションを併用した治療の即時効果を頸椎可動域、頸部運動時痛、自覚的改善度で治療前後と群間で比較しその効果を検討することとした。【方法】 対象は頸部運動時痛を有する頸部痛患者16名(男性5名、女性11名)で年齢54.3±12.5歳、身長157.4±8.7cm、体重55.6±17.8kgであった。対象者は頚椎間歇牽引療法のみ群(牽引群)と頚椎間歇牽引療法+上位胸椎モビライゼーション併用群(胸椎mobi併用群)に無作為で群分けした。頚椎間歇牽引療法はTractizer TC-30D(ミナト製)を使用し、端坐位にて牽引力を体重の1/6、牽引10秒、休止10秒の計10分間施行した。胸椎モビライゼーションは対象者を腹臥位としTh1-6胸椎棘突起を後方から前方へKaltenborn-Evjenth consept gladeⅢの強度で各分節30秒間ずつ同一検者が行った。両群ともに治療介入前後で端坐位にて頸椎自動屈曲・伸展・側屈・回旋可動域を日本整形外科学会可動域測定に基づきゴニオメーターにて測定した。さらにその際頸椎自動運動時の頸部痛をVisual analog scale(VAS)にて測定した。また治療介入後自覚的改善度を日本語訳したThe Grobal Rating of Change(GROC:-7ものすごく悪くなった~0変わらない~+7ものすごく良くなった)にて聴取した。統計学的解析はSPSSver.11を使用し、治療介入前後比較は両群の頸椎可動域とVASをWilcoxonの符号付き順位検定にて行い、群間比較は対象者の基本情報と頸椎可動域とVAS及びGROCをMann-Whitney 検定にて行った。さらにGROCと頸椎可動域及びVASの変化との関係をSpearmanの相関係数にて調査した。有意水準は全て5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、本研究目的と方法と手順やリスク及び個人情報の取り扱いについて口頭及び書面にて説明し同意を得た。【結果】 対象者は牽引群8名、胸椎モビライゼーション併用群8名で性別、年齢、身長、体重に群間に有意差はなかった。介入前後比較(介入前、介入後)では牽引群の頸椎伸展VAS(47.5±23.4mm、40.5±24.8mm)で有意差がみられ、胸椎mobi併用群の頸椎伸展可動域(53.1±8.1度、59.6±7.0度)、右回旋可動域(60.5±17.8度、69.4±11.6度)と頸椎伸展VAS(40.1±34.0mm、23.5±29.8mm)、右側屈VAS(24.9±18.2mm、15.4±14.1mm)、右回旋VAS(19.0±21.1mm、6.8±9.4mm)で有意差がみられた。治療の群間では頸椎可動域、VAS、GROCに有意な差はみられなかった。GROCと頸椎可動域及びVASの変化の関係性はGORCと頸椎伸展VASが中等度の負の相関(r=0.69)で最も強くみられた。【考察】 本研究では両群間差がみられず胸椎モビライゼーションと頚椎間歇牽引療法に治療的な効果の差がみられなかったが、治療前後比較では頚椎間歇牽引療法のみの治療で頸椎伸展VASの軽減はみられ、さらに上位胸椎モビライゼーションを併用することにより頸椎可動域(伸展・右側屈・右回旋)の増加がみられた。またGROCと頸椎伸展VASに最も強い相関がみられたことから頸椎伸展運動の改善が患者の自覚的改善度を増加させることが示唆された。胸椎mobi併用群が伸展可動域と伸展VASの改善を示したことからも胸椎モビライゼーションは頸部痛を主観的及び客観的両面で改善させる可能性があると考えられる。今後は本研究の限界である胸椎モビライゼーションによる頸椎可動域や疼痛の変化の要因の究明や、疾患や痛みの評価を詳細に行うことでより効果的な頸部痛治療法を検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 頸部痛患者に対する頚椎間歇牽引療法と上位胸椎モビライゼーション併用群は頚椎間歇牽引療法のみの治療よりも即時的に主観的及び客観的に頸部運動時痛を改善し得る。