- 著者
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波田 重煕
吉倉 紳一
- 出版者
- 高知大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1988
最近、秩父累帯は、複数のテレ-ンからなる複合地帯であると考えられるようになってきた。そのようなテレ-ンの中でも、黒瀬川テレ-ンは先シルル紀基盤岩類を含み、古地磁気のデ-タなどに基づくと、それが、ゴンドワナ大陸に起源を持つ可能性がでてくるなど、西南日本のテクトニクスを解明するためには鍵となるテレ-ンであると考えられる。そこで、黒瀬川テレ-ンが本当に先シルル紀基盤岩類からなる大陸と、そこから由来した屑物を含む大陸被覆層からなるStratigraphic terraneなのかと明らかにしようとして2年間このプロジェクトと取り組んだ。そのために、主に、(1)花崗岩質岩礫で特徴づけられる“薄衣式礫岩"の年代を放散虫化石を用いて再検討する。(2)年代の明らかになった礫岩の花崗岩質岩礫の岩石化学的特徴を明らかにし、基盤岩類との類線性を比較検討する。(3)花崗岩質岩礫及び基盤の花崗岩質岩よりジルコンを抽出し、U-pb年代を測定する研究方法を取った。その結果、(1)については、ペルム紀中世からジュラ紀中世にわたる種々の年代の薄衣式礫岩層が存在すること,それらが、大陸地域の成層岩層であること、(2)については、礫には黒瀬川構造帯の基盤岩類に対応するものが存在すると同時に、風化変質の影響があるとはいえ、それらと特徴を異にする花崗岩質岩礫も含まれること、そして、(3)については、最終的な結果がまだ出ていないが、薄衣式礫岩の花崗岩質岩の礫には、予想もしていなかった程若いものが含まれることが明らかになってきた。(3)の点は新しい大変重要な事実で、その解釈としては種々の考え方が可能と思われるが、1つの重要な可能性として、従来、黒瀬川陸塊への海洋プレ-トの沈み込みが、例えば、古生代末からトリアス紀初期の時代に想定されていたが、花崗岩質岩礫の年代は、その直接的な証拠となるかもしれないことを指摘しておきたい。