著者
浅利 宙
出版者
九州大学
雑誌
人間科学共生社会学 (ISSN:13462717)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.81-100, 2003-02-14

本稿では、日本の家族社会学で展開された、社会生活上の「家族」に関する議論を取り上げ、その変化の過程を追うとともに、現代的課題を検討する。当初、社会生活上の「家族」への問いは、「個」の制約をめぐる社会規範への問いとして形成されており、その代表例として、戦前期に「社会形象としての家」という文脈から展開された、鈴木栄太郎の家族論を挙げることができる。鈴木は「社会制度としての家族」への着目を出発点にして、個を融合させる「家族の全体性」の存在を主張するとともに、社会生活上の行動規範として「家の精神」を導出した。この視角は、鈴木自身の家族概念の多義的使用、そして、社会規範から現実生活への関心の転換と核家族概念の浸透にともない、家族社会学の主要な問題関心とはならなくなっていった。だが、現在、個人と家族との関係に注目が集まっているゆえに、家族による個への制約は、決して無視できない問いになっている。その際、社会生活上における「家族」という視座は、現実生活への着目を保持しながらも、独特の「重さ」に関する問いの歴史をもつ、「個」を制約し、融合せしめる点から、また、場面自体を規定する側面から、いっそう、重要になってくるだろう。
著者
浅利 宙
出版者
宇部フロンティア大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

今年度は、「比較」を意識しながら、1)遺族支援に関する文献研究(遺族支援の考え方と海外や国内の支援動向の特徴を把握する)、2)遺族支援グループに対する参与観察調査、3)グループの加入者に対する調査の3つを実施した。1)死別によって悲嘆状態に陥った人を同様の経験をした遺族がケアする一連の活動を「遺族間相互支援プログラム」という。海外では遺族への個別訪問活動が少なくないようであるが、わぶ国の場合は、医療・看護専門職による遺族会の組織化活動、ならびに、遺族等によって形成された遺族支援グループによる諸活動が多くを占めるというプログラム展開上の特徴が指摘できる。2)昨年度からの遺族支援グループに対する参与観察を今年度も継続して実施した。特記すべきなのは、参与観察している遺族支援グループが、従来の遺族支援活動に加えて、社会に向けた情報発信活動を展開した点である。参与観察を継続していた遺族グループでは、加入者を対象に在宅看護調査を実施し、その結果を関連の研究会にて報告した。これらの一連の動きは、同様の多くの遺族支援グループが活動展開に悩みをもつなかで、立ち上げ→組織化に引き続く展開のあり方として参考事例になるであろう。3)在宅看護調査からは、終末期の在宅看護では同居家族が看護の中心となるが、特に配偶者との二人暮らしの場合は別居家族(親族)のサポートが大きな意味をもつことが分かった。また、インタビュー調査による事例の比較からは、終末期のあり方は個別性が強いにもかかわらず、家族に対する病状の適切な説明が多くの患者・家族に共通するニーズであることを確認できた。特に終末期のあり方は、看取りの過程にとどまらず、看取り後の遺族の立ち直り過程にも大きな影響を与えている。これらの「声」を集約するところに、遺族支援グループのもつ社会的意義を指摘することができる。