著者
浅川 和幸
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.119, pp.27-50, 2013-12-25

現在,道徳教育の教科化を進めるための議論が行われている。この議論の注目すべき点は,「新たな枠組み」で教科化を進めるというところにある。道徳教育の教科化は,生徒指導や進路指導も含めた広い領域で進められていることの一部にあたり,戦後教育の大幅な転換を目的としたものである。本稿は,現在の道徳教育の教科化を進める立場の研究者とは違った問題意識を出発点に,「新たな枠組み」を構想することを目的とした。道徳教育論の書籍の分析と,筆者自身の教職課程の講義「道徳教育論」における実践の分析から「新たな枠組み」提案を越えるための試論を行った。これらの考察から,中等教育の教科の枠組みの組み換えも視野に入れた提案が必要であると考えた。 The government in power took necessary measures to encourage moral education as an officialsubject. However, to be an official subject, the framework of moral education in terms of studentguidance and vocational counseling need to be revised?a significant transition in education afterthe war. This study proposes a new framework. I analyze moral education theory and classroompractices: moral education needs theoretical consideration of a design to completely reformsecondary education.
著者
小林 甫 ボロフスコーイ ゲンナデ ストレペートフ ヴィクト ベルナルディ ロレンツォ メルレル アルベルト デイアマンティ イルヴォ サルトーリ ディアナ グリサッティ パオロ ネレシーニ フェデリコ カヴァリエーヴァ ガリー カンコーフ アレクサンド 上原 慎一 横山 悦生 田中 夏子 土田 俊幸 新原 道信 浅川 和幸 小内 透 所 伸一 杉村 宏 木村 保茂 クム ソフィア コルスーノフ ヴィクトル KORSUNOV Victor KONKOV Alexander BOROVSKOI Gennadi STREPETOV Victor DIAMANTI Ilvo BERNARDI Lorenzo リム ソフィア カヴァリョーヴァ ガリー ディアマンティ イルヴォ グリサッテイ パオロ 山口 喬
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

昨年度までの研究によって、非重工業化地域の内発的な産業・社会の発展を将来的に担う、青年層における青年期自立の内実は、職業的自立と社会的自立との相互連関を追求することで考察しうることを確認した。本年度はそのことを、3カ国の青年層に対する「共通調査票」を作成して、定量的に分析することに主眼を置いた。イタリアでは、ヴェネト州内の国立技術高校、職業高校(ヴィチェンツァ市)、私立の職業訓練機関(ヴェロ-ナ市)の生徒を対象とした。サハリンでは、ユジノサハリンスク市、コルサコフ市の職業技術学校、普通科高等学校/リチェ-イの生徒、失業地帯マカロフ市の職業技術学校生と失業青年を取り上げた。日本は、北海道・長野県・岐阜県の工業高校生、東京の工業高等専門学校生、そして北海道と岐阜県の職業能力開発短期大学校生を選んだ。教育階梯差と地域差を考慮してである。この国際共通調査の結果を含め、2年数か月の研究成果を持ち寄り、国際研究報告会を札幌で行った(平成6年10月6日-11日。イタリアの報告4、ロシア3、日本6)。イタリア人の報告によれば、工業や手工業を学んでいる青年層は、現在校を自ら選んで入学し(学科への興味、技術・技能の習得など)、卒業後は家業を継ぐか、自らによる起業を望んでいる。ロシアにおいては、不本意入学的な職業技術学校生と、“意欲"を示す高校生/リチェ-イ生に二分されるが、卒業後の進路としては、いずれも第一次・第二次産業を志向せず、第三次産業の何かの部門を熱望している(銀行、商業、貿易など)。小売業、旅行業、漁業の中小企業を希望する者も25-30%いる。日本では、教育階梯差に関わりなく、一定の不本意入学生を含みつつ、おおむねは「就職に有利だ」という理由で入学し、(イタリア、ロシアと同じく)厚い友人関係を保持している。しかし、卒業後の進路には地域差が見られる。中小企業の選択は各々3分の1程度だが、他の地域への転出希望において北海道(工業高校生、ポリテクカレッジ生)、城南の中小企業地帯出身者が多い東京の高専生に高かった。対極に、岐阜(工業高校、ポリテクカレッジ)と長野とが来る。岐阜県では名古屋など愛知県内への通勤希望も多い。-だが、生活価値志向においては、日本(4地域)とイタリアには大きな違いは存しない。いずこにおいても、自由時間、家族、友情、愛情に高い価値を置き、やや下がって仕事が位置づく。シンナーや麻薬、理由のない暴力、汚職を否定し、結婚前の同棲を許容する。しかし、ロシアでは、高い価値の所在はほぼ同じだが、許し難いことの上位に、親や友人を援助しないことが入り、戦争時の殺人が許容される。ここには、ロシア(サハリン)的な生活上の紐帯と、反面での国家意識とが発現している。ところで、こうした共通の生活価値の存在は、一方では、若い世代が「市民社会」的なネットワーキングを形成しつつあることを示唆する。しかし、他方、職業的な価値志向としては“分散"することもまた事実である。私たちは現在、両者の相互関係の規定要因を見いだすべく分析を重ねているが、重要な要素として注目すべきは、「SOCIAL ACTORS」である。それは、イタリアでは「職業訓練-公的雇用斡旋(学校は不関与)-家族文化-労働組合-他のアソシエーション(社会的サービス分野でのボランティア)-地方自治政府」の連鎖として理解されているものである。青年層は、その生活価値・職業価値を、このような連鎖のなかにおいて、各自がそれぞれ意味づけてゆく。かつほぼ30歳位までは、多くの職業・職場を移動し、自らの“天職"を見いだすのだと言う。またロシアにおいても、1991年以前においては、90%以上の青年が第10学年まで進学して職業訓練を受けるとともに、アクタヴリストーピオニール-コムソモ-ルなどで社会生活のトレーニングを積み、同じく30歳位が各人“成熟"の指標であった。-こうしたイタリア、旧ロシアに対し、日本社会での青年期自立(職業的かつ社会的自立)の「SOCIAL ACTORS」は、企業内の教育・訓練が担ってきたとされる。だが、高等教育機関への進学率の上昇のなかの青年層は、アルバイトなどの学外生活を含む学校生活をそれに代用させているとも言い得る。この点の追究が、次回以降の研究テーマを構成する。