著者
海老 原充 海老 原敏 岸本 誠司 斉川 雅久 林 隆一 鬼塚 哲郎 朝蔭 孝宏 吉積 隆
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.1406-1411, 1998-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

分化型甲状腺癌は比較的悪性度の低い癌として知られているが,中には周囲臓器への浸潤を来すものもある.特に浸潤頻度の高い臓器は気管である。そこで当院での気管浸潤例における手術手技,気管再建法における工夫,及び成績に関して報告をした.対象症例は国立がんセンター中央病院(1978年1月~1990年2月)およびセンター東病院(1992年7月~1996年12月)にて気管合併切除を施行した分化型甲状腺癌30例で,同期間中に手術を施行した分化型甲状腺癌全486例の約6.2%にあたった.病理組織学的には全例乳頭癌であった.性別は男性10例,女性20例であり,平均年齢は58.8歳(22~75歳)であった.切除後,21例に関しては二期的にhinge flapにて気管孔閉鎖が可能であった.気管部分切除•局所皮弁による再建は,気管環状切除•端々吻合に比較して術後の気道管理も容易であり手術侵襲も少なく,甲状腺分化癌のように悪性度の低い癌ではこの術式にて十分対応可能と考えられた.残りの5例に関しては欠損範囲が大きく,そのままでは二期的閉鎖が不可能であったため,3例に関しては気管壁欠損の上下方向を縫縮し残った欠損部に気管孔を作製し,局所皮弁にて閉鎖を行った.さらに,他の2例ではハイドロキシアパタイトを使用し気管壁の支持を試みた.ハイドロキシアパタイトは組織親和性に優れ,わん曲,長さ等の選択が可能で気管再建に有用と思われた.なお閉鎖のできなかった4例に関しては他因死が1例,肝癌併発にて気管孔縮小に止まったものが1例,経過観察中のものが2例であった.