著者
井上 貴央 海藤 俊行 川久保 善智 徳永 勝士 篠田 謙一 椋田 崇生
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.古代人の脳の微細形態解析弥生時代人および江戸時代人の脳組織の一部を細切し、光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、脳組織のミエリン鞘が三次元的なネットワークをなしているのが確認できた。現代人の脳ではこのようなネットワークの観察ができていないが、古代人の脳では、ネットワーク以外の構造物が融解していた結果による。古代人の脳の残存例は、比較的分解されにくいミエリンを構成するリポ蛋白質の残存によることが明らかになった。2.山陰の古代人の形質人類学的研究これまでに収集された山陰地方の古代人骨についてデータベースを作製し、青谷上寺地遺跡など一部の人骨資料については接合・保存処理作業を行い、写真撮影、計測を行った。山陰地方の弥生時代人・古墳時代人、江戸時代人について顔面平坦度の計測を行い、東日本の古人骨と比較検討した。さらに、岡山県彦崎貝塚遺跡の縄文人骨の形態学的解析を行った。その結果、渡来系弥生人の範疇に入る山陰地方の弥生人の中には、縄文的な色彩を残している個体があることが判明し、北部九州の渡来系弥生人とは異なった形質をもつものがあることが明らかになった。また、青谷上寺地遺跡の弥生人は、北部九州の渡来系弥生人より韓国の礼安里古墳人に近いことが統計解析によって明らかになった。3.脳と骨組織のDNAの抽出古人骨のミトコンドリアDNA抽出を試みたところ、古墳時代の骨からは検出できなかったが、弥生時代の資料では、30点中9点からDNAを抽出することができ、Dループの塩基配列を決定することができた。そのハプロタイプはD4型が多かったが、Fも存在し、当初考えていたように単一な集団ではなく、ある程度多様な遺伝子配列を持つ集団であることが明らかになった。歯牙からのDNAの抽出も試み、さらに数体分からのDNAデータが得られたが、人骨の所見とは異なっていた。コンタミネーションの可能性を含め、慎重に分析を行う必要があるものと思われる。江戸時代の脳組織からは21点中8点からDNAの抽出に成功し、ハプロタイプを決定した。弥生時代の脳からはDNAの抽出はできなかった。また、核のDNA抽出はできなかった。