著者
深尾 篤嗣 高松 順太 小牧 元 呉 美枝 槙野 茂樹 小森 剛 宮内 昭 隈 寛二 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.10, pp.643-652, 2002-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
26
被引用文献数
2

バセドウ病甲状腺機能亢進症において,患者の自我状態と,抑うつ傾向,アレキシサイミア傾向,および治療予後との関連について前向き検討を行った.対象は73例の本症患者で,抗甲状腺剤治療開始後euthyroidになった時点で,TEG(東大式エゴグラム)によって調査したAが50パーセンタイル以上のhighA群(44例),50パーセンタイル未満のlowA群(29例)に分け,治療開始3年目までの予後およびSDSやTAS-20の得点との関連を調べた.次いでFCがACより高いFC優位群(40例)と,逆のAC優位群(33例)に分けた2群でも同様に検討した.寛解率はlowA群(10%)がhighA群(41%)より有意に(p=0.0048)低かった.また,AC優位群(18%)がFC優位群(40%)より有意に(p=0.0432)低かった.SDSおよびTAS-20総得点は,いずれもAC優位群のほうがFC優位群に比して有意に(p=0,0001,p<0.0005)高かった.TAS-20の因子1および因子2もまたAC優位群のほうがFC優位群に比して有意に(p=0.0022,P<0.0001)高かった.以上の結果より,合理的判断力や感情表出力が低い自我状態のバセドウ病患者では,抑うつ傾向やアレキシサイミア傾向とも相まって,甲状腺機能亢進症が難治化する心身相関の存在が示唆された.
著者
深尾 篤嗣 高松 順太 河合 俊雄 宮内 昭 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.42-50, 2013-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
35
被引用文献数
1

甲状腺疾患の心身医療においては,患者ごとに「ホルモンが先か?ストレスが先か?」を念頭に置きながら診療することが重要である.バセドウ病,橋本病ともに精神変調を合併しやすいことが知られている.今日,精神病像として多いのはともにうつ状態,神経症であり,甲状腺機能のみならず多様な心理社会的要因が影響している.近年,多くの研究により,バセドウ病の発症にライフイベントや日常いらだち事が関与していることが確認されている.一方,本症の治療経過に影響する心理社会的要因の研究により,増悪要因としてライフイベント,日常いらだち事,抑うつ,不安,アレキシサイミア,エゴグラムのAC,摂食障害が,反対に改善要因としてエゴグラムのAやFCが見い出されている.
著者
有島 武志 佐々木 一郎 吉田 麻美 深尾 篤嗣 大澤 仲昭 花房 俊昭 石野 尚吾 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.69-74, 2007-01-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1

我々は, バセドウ病発症に伴い, 精神変調を来した, もしくは精神変調が悪化し, 西洋医学的治療により甲状腺機能が正常化したにも関わらず精神変調の改善が無く, 漢方治療を併用することで改善を認めた2症例を経験した。症例1は, 24歳女性。2000年にバセドウ病と診断され, 抗甲状腺剤による治療が開始され, 機能正常となったが, イライラ感, 不安感, 絶望感等の精神変調が改善しないため2005年2月来院。症例2は, 26歳女性。高校卒業後, 就職を契機にバセドウ病を発症。抗甲状腺剤による治療が開始されたが, 甲状腺機能は不安定で軽度の亢進と低下を繰り返し, その間にイライラ感, 疲れやすい, 気力減退, 脱毛等の症状が悪化し, 2005年1月来院。2例とも桂枝甘草竜骨牡蠣湯合半夏厚朴湯を処方 (症例1は経過中変方有り) し, それぞれ16週, 9週後には症状は著明に改善した。精神変調を併発したバセドウ病に対する漢方治療の有用性が示唆された。
著者
深尾 篤嗣 村川 治彦
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.48-55, 2011 (Released:2019-08-28)

プロセス指向心理学(POP)は、問題を普段の意 識状態(一次プロセス)が不都合で否認したい自分 の一部(二次プロセス)と葛藤を起こした状態と捉 え、より大きな存在からの大切なメッセージとして 扱う。西洋的自我が「完全性」を目標とするのに対 して「全体性」を目標とする。強迫性障害の症例を 基に、心身医療へのPOP導入の意義について考察し た。 【症例】30歳代女性。前医で薬物療法とカウンセリン グを受けても症状が持続していた。X-13年、職場の派閥争いを機に強迫性障害を発症。SSRI治療にても 改善不良のため、X+3年9月よりPOPを導入。面接や ワークを通じて徐々に患者は、「完璧主義、潔癖症」 という一次プロセスの半面、「関係性」という二次プ ロセスの存在に気づき、全体性の回復がみられた。 X+6年現在、患者の完全主義、潔癖症は改善し、結 婚、出産や社会貢献を望むように変わっている。 【結論】POP導入により、完全性と全体性、cureと healingを両立させる新しい医療へのパラダイムシフ トが促される。
著者
深尾 篤嗣 村川 治彦
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-41, 2010 (Released:2019-08-31)

ドッシーは医学・医療を歴史的に、第一段階の身体医学・医療、 第二段階の心身医学・医療、スピリチュアリティの介在を認める 第三段階の医学・医療に分類している。一方、池見はbio-psychosocio-eco-ethical medical modelを提唱し、心身医療のゴールは実 存的な目覚めであり、自我を超えたスピリットへの超越と東西心 身アプローチ融合の必要を説いた。 我々は、プロセス指向心理学による「身」に対する多次元的ア プローチ(レインボー・メディスン)を導入することで第三段階 医学・医療を試みている。「自我」主体の「因果性」に基づく西洋 的心身医療と、「気づき」主体の「共時性」に基づく東洋的身心ア プローチを融合することにより、「心(マインド)」と「身体(ボ ディ)」の相関を扱う「心身医学」から、「魂(スピリット)」と 「身」の相関を扱う“魂身医学”へのパラダイムシフトが実現され ることが示唆された。
著者
深尾 篤嗣 高松 順太 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.1197-1207, 2015-11-01 (Released:2017-08-01)

背景:内分泌疾患における症状精神病の病態は,従来ホルモンの過不足を主因とするbiomedical modelの立場から考えられてきた.本稿では,甲状腺疾患,クッシング症候群を例にして,biopsychosocial medical modelからみたその実際について述べる.結果:近年の研究によって,バセドウ病,橋本病ともに合併する精神障害で多いのは抑うつ状態や不安障害であり,治療で甲状腺機能が正常化した後も残る例が多いことがわかってきた.また,筆者らはバセドウ病患者において,甲状腺機能正常化後に残る精神障害は心理的ストレスとの関連が強く,難治化要因になることを見い出した.一方,クッシング症候群ではうつ病との鑑別が問題となる.さらにSoninoらは,クッシング病の発症には心理的ストレスが関連していること,大うつ病像が術後再発の危険因子となることを報告している,本稿では筆者らが経験したうつ病との鑑別に苦慮したクッシング病の一例を提示する.結論:内分泌疾患における症状精神病はbiopsychosocial medical modelでとらえ直す必要がある.