- 著者
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小林 憲人
清家 庸佑
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1530, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに,目的】腰痛は,看護・介護職員の業務上疾病の最大の発生率として問題視されている。業種別での統計では保健衛生業における割合として78.5%と最も高率であると報告されている。職業性腰痛に関する報告は多く,発生要因として身体的要因のみでなく心理社会的要因の関与が指摘され多面的な解析が行われている。慢性腰痛に対するエビデンスレベルが高く推奨されている治療の1つに認知行動療法(Cognitive behavioral therapy:CBT)が挙げられている。今回,CBTの中でも,体験に対してある特定の方法で注意を向けることで現れる気づきに特徴を持つマインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy:MBCT)は,痛みに対してのエビデンスも証明されており,他方面で注目されている。そこで本研究では,職業性腰痛のある職員に対しMBCTが痛みを軽減できるのか。痛みの効果量について検討した。また,職業性腰痛に対する心理社会的要因についての検討を通して今後の理学療法への還元について検討する。【方法】対象は,A病院に勤務する職員98名中,痛みの主観的評価において痛みの自覚を認めた者で研究に同意しMBCTに参加した20代から60代の職員40名(全体の約40%)。MBCTは,所要時間60分,定員を10名とし,MBCTプログラムは臨床心理士と作成し実施した。評価項目は,痛み(Numeric rating Scale:NRS),腰痛歴,心理社会評価として不安・抑うつ尺度(hospital anxiety and depression scale:HADS)を調査した。MBCT実施前後の痛みの比較,痛みと心理社会的要因との関係について調査した。統計学的処理は,MBCT実施前後の痛みの比較にウィルコクソン符号付順序和検定を,不安・抑うつにおいて実施前後の比較にt検定を行った。いずれも危険率5%未満を有意水準とした。また,MBCT実施前後の痛みと不安・抑うつの効果量を算出した。【結果】MBCT実施前後では,NRS(2.91±1.83)→(1.76±1.64),HADSの不安(7.4±3.9)→(4.6±2.8),抑うつ(7.8±3.3)→(7.1±3.5)と有意に改善を認めた。(p<0.05)。また,効果量においてはNRS(r値:0.69)とHADS(r値:0.68)。【結論】本研究の結果より,職業性腰痛者においてMBCTが痛みの軽減・不安と抑うつに対しても有効であることが示唆された。また,その効果量についても大きな効果を認めた。一方で,今回の研究からは即時効果のみの検証となっており今後,痛みの軽減が持続するのかを検討する必要がある。本研究より理学療法士による職業性腰痛者に対しての理学療法評価は,身体的評価および心理社会的要因を含めた包括的評価を含める必要性が考えられる。また,介入においても心理社会的要因の必要性が示唆された。