- 著者
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伊豆田 猛
松村 秀幸
河野 吉久
清水 英幸
- 出版者
- 公益社団法人大気環境学会
- 雑誌
- 大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, no.3, pp.137-155, 2001-05-10
- 被引用文献数
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世界各地で森林衰退が観察されており, 様々な原因仮説が出されているが, 酸性降下物はオゾン(O_3)と共に注目されている。したがって, すでに衰退している, または, 今後衰退する可能性がある樹種に対する酸性降下物の影響やそのメカニズムなどを実験的に調べる必要がある。これまでに欧米や我が国で行われた実験的研究の結果に基づくと, pH4.0以上の人工酸性雨や酸性ミストを数カ月から数年にわたって樹木に処理しても, 著しい成長低下や可視障害は発現しない。しかしながら, 酸性雨に対する感受性が比較的高いモミなどの樹種では, その成長がpH4.0以下の酸性雨によって低下する可能性がある。樹木に対する土壌酸性化の影響に関する実験的研究で得られた知見に基づくと, (1)酸性土壌で生育している樹木の成長, 生理機能および栄養状態を制限する最も重要な要因は, 土壌溶液中に溶出したAlであること, (2)土壌溶液中の (Ca+Mg+K)/Alモル比は, 樹木に対する酸性降下物による土壌酸性化の影響を評価・予測する際のひとつの有用な指標であること, (3)スギやアカマツは, ノルウェースプルースに比べると, 土壌溶液中の (Ca+Mg+K)/Alモル比の低下に敏感であることが考えられる。欧米では, 実験的研究や現地調査の結果に基づいて, 森林生態系を保護するための酸性降下物のクリティカルロードが評価されている。日本と欧米の土壌の特性はかなり異なり, さらに酸性雨, 酸性霧, 土壌酸性化および土壌窒素過剰などの環境ストレスに対する感受性に樹種間差異が存在することが実験的研究から明らかになっている。したがって, 我が国における森林衰退の原因を明らかにし, 森林生態系における酸性降下物のクリティカルロードを評価するためには, 様々な樹種に対する酸性降下物の影響に関する実験的研究が必要である。