著者
伊豆田 猛 大津 源 三宅 博 戸塚 績
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-8, 1994

3品種 (ユキコマチ, コメット, ホワイトチェリッシユ) のハツカダイコン (Raphanus sativus L.) に, 播種10日後から, 0.15μl・l-1のオゾンを, 1日当たり4時間 (10: 00~14: 00), 5日間/週で, 野外に設置したオープントップチャンバー (OTC) を用いて暴露した。播種17日後に, 植物を収穫し, 葉面積と乾重量を測定した。また, 播種13日後の個体に, 0.15μl・l-1のオゾンを4時間暴露し, ガス交換速度を測定した。<BR>個体当たりの乾物生長に基づいたオゾン感受性は, ユキコマチ>コメット>ホワイトチェリシュの順に高かった。また, 純同化率および平均純光合成阻害率におけるオゾン感受性も同様な傾向が認められた。ユキコマチのオゾン吸収速度は, 他の2品種と有意な差はなかったため, オゾン吸収速度の違いによって, 純光合成速度におけるオゾン感受性の品種間差異は説明できなかった。これに対して, 単位オゾン吸収量当たりのCO<SUB>2</SUB>吸収量の阻害率は, 各品種間で異なり, ユキコマチ>コメヅト>ホワイトチェリッシュの順に高かった。<BR>以上の結果より, ハッカダイコンにおいては, 乾物生長に基づいたオゾン感受性の品種間差異に, 単位オゾン吸収量当りの純光合成阻害率が関与していると考えられた。
著者
伊豆田 猛 松村 秀幸 河野 吉久 清水 英幸
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.60-77, 2001-03-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
169
被引用文献数
7

世界各地で森林衰退が観察されており, 様々な原因仮説が出されているが, オゾン (03) などのガス状大気汚染物質は有力視されている。森林を構成している樹木に対するオゾンの影響に関する実験的研究の結果に基づくと, 森林地帯で実際に観測されている濃度レベルのオゾンによって, 欧米の樹種の成長や光合成などの生理機能が低下する。一方, 我が国の森林樹種に対するオゾンの影響に関する実験的研究は現在のところ限られているが, ブナやケヤキのような比較的感受性がい樹種では, 我が国の森林地帯で観測されている濃度レベルのオゾンによって乾物成長や純光合成速度が低下する。欧米においては, 実験的研究や現地調査の結果に基づいて, 森林生態系を保護するためのオゾンのクリティカルレベルを評価している。これに対して, 我が国の森林生態系に対するオゾンのクリティカルレベルを評価するために必要な情報は不足している。したがって, 我が国における森林衰退の原因を明らかにし, 森林生態系におけるオゾンのクリティカルレベルを評価するためには, 今後も様々な樹種を用いたオゾン暴露実験が必要である。
著者
李 忠和 伊豆田 猛 青木 正敏 戸塚 績
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.46-57, 1997-01-10
参考文献数
39
被引用文献数
9

硫酸溶液の添加により酸性化させた褐色森林土で育成したアカマツ苗の成長と植物体内元素含量に及ぼす土壌酸性化の影響を調べた。土壌酸性化処理は, 塩基溶脱を伴わない場合と溶脱を伴う場合について行った。塩基溶脱を伴わない場合の処理は, 土壌1l当たり, 10,30,60または90meq H^+イオンを硫酸溶液で添加した。また, 硫酸溶液を添加しない土壌を対照区とした。他方, 塩基溶脱を伴う土壌酸性化処理は, 上記の方法で土壌に硫酸添加処理を行った10日後に, 酸性化させた土壌または対照土壌をコンテナに入れ, 土壌体積の3倍量の脱イオン水を入れた後, 3日間静置し, コンテナの底から徐々に水を抜き, 土壌の塩基を溶脱させた。各処理区の土壌を詰めた1/10000aポットに, アカマツ(Pinus densiflora Sieb. et Zucc.)の2年生苗を移植し, 1995年6月2日から9月29日までの120日間にわたって温室内で育成した。このような処理によって酸性化させた褐色森林土で育成したアカマツ苗の生長阻害には, 土壌溶液のpHの低下とそれに伴う土壌溶液へのAlの溶出, およびアカマツ苗の地下部におけるAl濃度の増加に伴う地上部のCaなどの植物必須元素の減少などが関与することが示唆された。土壌酸性化に伴うアカマツ苗の成長低下の程度は, 土壌におけるAl濃度のみならず, Alとカチオンの存在バランスによってほぼ定まり, 土壌溶液の(Ca+Mg+K)/Alモル比が7.0以下になると明らかに乾物成長が低下し, その比が1.0の場合は乾物成長が対照区の値より約40%低下した。以上の結果より, アカマツ苗の成長に対する影響を考察する際には, 土壌における植物有害金属Alの濃度と共に, Ca, Mg, Kなどの植物必須元素の濃度も考慮する必要があると考えられる。
著者
三輪 誠 伊豆田 猛 戸塚 績
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.81-92, 1998-03-10
参考文献数
19
被引用文献数
4

人為的に酸性化させた褐色森林土で育成したスギ苗の乾物生長と土壌pH, 土壌中の水溶性Al濃度および(Ca+Mg+K)/Alモル濃度比との関係を調べた。火山灰母材, 花商岩母材および砂岩・粘板岩母材の褐色森林土1Lに, 10,30,60および100meqのH^+を硫酸溶液で添加して酸性化させた。また, 硫酸溶液を添加しない各土壌を対照土壌とした。これらの酸性化させた土壌および対照土壌に, スギ(Crypromeria japonica D. Don)の2年生苗を移植し, 1994年6月13日から9月5日までの12週間にわたって温室内で育成した。土壌への硫酸添加量の増加に伴って, いずれの土壌においても, スギ苗の乾物生長が低下した。これらの乾物生長の低下は, いずれの土壌においても, 土壌pH(H_2O)の低下に伴って生じたが, これは土壌中の水溶性Al濃度が増加したためであるとえられた。火山灰母材土では, 土壌中の水溶性Al濃度が風乾土あたりで10.5μg/gに増加すると, すでにスギ苗の乾物生長が低下したが, 他の土壌では, その濃度が30μg/gより高くなるとスギ苗の乾物生長が低下した。また火山灰母材土および花岡岩母材土では, 水溶性元素濃度から算出した(Ca+Mg+K)/Alモル濃度比が5より小さくなると, スギ苗の乾物生長が低下し始めた。これに対して, 砂岩・粘板岩母材土では, 同比が9.21のとき, すでにスギ苗の乾物生長が低下したが, この処理区の土壌中の水溶性Al濃度は37.8μg/gであった。以上の結果より, 硫酸溶液を添加して酸性化させた褐色森林土では, 土壌中の水溶性Al濃度が風乾土あたりで30μg/gより高くなると, 共存する塩基の濃度に関係なく, スギ苗の乾物生長が低下するが, その濃度が30μg/gより低い場合, Alの影響は共存する塩基の濃度に依存し, (Ca+Mg+K)/Alモル濃度比が5より小さくなると, スギ苗の乾物生長が低下すると考えられた。
著者
米倉 哲志 本田 雪絵 Oksanen Elina 吉留 雅俊 渡邊 誠 船田 良 小池 孝良 伊豆田 猛
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.333-351, 2001-11-10
被引用文献数
3

3年生のブナ(Fagus crenata Blume)苗のガス交換速度, 葉の水ポテンシャル, 光合成系IIの最大光量子収率(F_v/F_m), クロロフィル含量, 葉の微細構造および年輪幅に対するオゾンと水ストレスの単独および複合影響を調べた。自然光型ファイトトロン内に浄化空気を導入した浄化区と60nmol・mol^<-1>のオゾンを毎日7時間(11 : 00〜18 : 00)にわたって導入したオゾン区を設け, 各ガス処理区において, 3日毎に250mL灌水した土壌湿潤区と175mL灌水した水ストレス区を設定した。これらの4処理区において, ブナ苗を156日間(1999年5月10日〜10月12日)にわたって育成した。水ストレス処理によって, 葉の水ポテンシャルが7月以降に有意に低下し, ブナ苗の葉における純光合成速度(A_<350>), 気孔コンダクタンスおよび蒸散速度が8月以降に有意に低下した。また, 葉緑体内のプラスト顆粒が水ストレス処理によって有意に大きくなった。オゾン処理は, ブナ苗のA_<350>, CO_2固定効率, 最大純光合成速度, F_v/F_mおよび年輪幅を有意に低下させた。このオゾンによるA_<350>の低下は, まずRuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)含量の低下によって引き起こされ, その後はRubisco含量の低下と共に, RuBPの再生能力や光化学系活性の低下によると考えられた。また, 葉緑体内のプラスト顆粒がオゾン処理によって有意に大きくなったが, デンプン粒は有意に小さくなった。葉のガス交換速度, 葉の微細構造および年輪幅においてオゾンと水ストレスの有意な交互効果は認められなかったが, 両ストレスは相加的に作用し, 純光合成速度や年輪幅を著しく低下させた。
著者
伊豆田 猛 松村 秀幸 河野 吉久 清水 英幸
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.137-155, 2001-05-10
被引用文献数
12

世界各地で森林衰退が観察されており, 様々な原因仮説が出されているが, 酸性降下物はオゾン(O_3)と共に注目されている。したがって, すでに衰退している, または, 今後衰退する可能性がある樹種に対する酸性降下物の影響やそのメカニズムなどを実験的に調べる必要がある。これまでに欧米や我が国で行われた実験的研究の結果に基づくと, pH4.0以上の人工酸性雨や酸性ミストを数カ月から数年にわたって樹木に処理しても, 著しい成長低下や可視障害は発現しない。しかしながら, 酸性雨に対する感受性が比較的高いモミなどの樹種では, その成長がpH4.0以下の酸性雨によって低下する可能性がある。樹木に対する土壌酸性化の影響に関する実験的研究で得られた知見に基づくと, (1)酸性土壌で生育している樹木の成長, 生理機能および栄養状態を制限する最も重要な要因は, 土壌溶液中に溶出したAlであること, (2)土壌溶液中の (Ca+Mg+K)/Alモル比は, 樹木に対する酸性降下物による土壌酸性化の影響を評価・予測する際のひとつの有用な指標であること, (3)スギやアカマツは, ノルウェースプルースに比べると, 土壌溶液中の (Ca+Mg+K)/Alモル比の低下に敏感であることが考えられる。欧米では, 実験的研究や現地調査の結果に基づいて, 森林生態系を保護するための酸性降下物のクリティカルロードが評価されている。日本と欧米の土壌の特性はかなり異なり, さらに酸性雨, 酸性霧, 土壌酸性化および土壌窒素過剰などの環境ストレスに対する感受性に樹種間差異が存在することが実験的研究から明らかになっている。したがって, 我が国における森林衰退の原因を明らかにし, 森林生態系における酸性降下物のクリティカルロードを評価するためには, 様々な樹種に対する酸性降下物の影響に関する実験的研究が必要である。
著者
佐藤 敬一 内山 厚 伊豆田 猛 三輪 誠 渡辺 直明 久保 隆文 伏谷 賢美
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. US, 超音波
巻号頁・発行日
vol.94, no.155, pp.61-67, 1994-07-20

酸性雨が土壌酸性を引き起こし樹木に水ストレスを与えていることを考慮し、酸性土壌に植えたスギの2年生苗木について12週間にわたりAEを測定し、発生したAE特性について検討した。その結果、夜や曇り、雨などの日射量のないときはAEが検出されなかった。健全な対照区の苗木では、AEは日照開始時に集中しており、蒸散流の開始によるキャビテイションにともなって発生していることが分かった。また、水ストレスを受けている植え替え直後や酸性区の苗木では、AE発生の日照開始時の集中度は低く、日射がある時間帯ははんべんなくAEが発生した。