著者
清水 麻記
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

現在、日本には7000館近くの博物館・科学館が存在する。こうした既存のインフラは、施設の維持費が増大こそすれ、これまであまり地域の人々に活用されてこなかった。博物館の教育的役割の重要性がますます高まり、人々のニーズを読み取り、これまでにない教育プログラムの開発・実施や自己収入獲得の有効な方法を見出すことを迫られている博物館にとって、館の自己収入につながり教育プログラムを提供できるバースデー・プログラム(以下BDP)は有効である。このBDPに着目し、事例収集を行った上で、日本の現状に即した日本型のバースデー。プログラムを考案・実施した。得られた結果を以下に要約する。 ・欧米においては、BDPは館の自己収入に有効であり、得られた利益でコミュニティ・アウトリーチ事業を始めるなど、有効な結果も生み出している(家庭へのアウトリーチBDP、館からの招待状などでブランド化)。 ・日本では、個人の来館者のためのお誕生日企画は数例散見されるが、恒常的なプログラム提供にはいたっていない。その理由は、人材不足、館の運営・サービス内容がいまだ多くの通常の来館者へのサービスの充実で精一杯であるという事実に関連している。 ・日本では、公の性質をもつ館が多く、個人的なパーティーを博物館等でもつことが考えにくい傾向があるが、バースデー・コーディネーターの導入が可能になれば新規事業としてのお誕生日企画も可能である。 ・沖縄こどもの国ワンダーミュージアムにおけるプログラム開発・実施より、公共性の高い施設においても、大多数の来館者向けにBDPが可能であることを実証できた。また、お誕生日から連想される「いのち」の大切さをテーマとし、BDPをミュージアムで行う意義があることを核にした教育プログラムを開発し、動物園・水族館には汎用性の高い先行事例をつくることができた。今後も、日本のミュージアムでのお誕生日プログラムの開発に向けて、大人も子どもも含めた来館者がどのようなことを期待しているのか、館側は何ができるのかについて調査・研究していくことが重要である。これにより、博物館が人々の生活に意義のある存在であり続ける方策のひとつが見出せるのではないだろうか。平成4月より、沖縄こどもの国ワンダーミュージアムにおいてお誕生日ワークショップがズタートする。共同研究して頂いた館に、現場で研究成果が引き継がれさらに発展したお誕生日プログラムが開発されていくことは、本研究において最も嬉しい成果である。