著者
渡辺 響子
出版者
明治大学教養論集刊行会
雑誌
明治大学教養論集 (ISSN:03896005)
巻号頁・発行日
no.384, pp.49-67, 2004-03

都市論は,おそらくベンヤミンを発端に,二十世紀の世界中の都市で脚光を浴びるようになった研究分野であろう。文学的な,あるいは社会学的なアプローチによって,あまたの都市の形成過程が浮き彫りにされていくのは,研究者のみならず,どんな読者にとっても刺激的な知的冒険である。ジャンヌ・ガイヤールや,ドナルド・J・オールセンなどは,もはや古典の域に入る基本書であると言えよう。ごく最近では,建築学の陣内秀信氏と「感性の歴史学」で知られるアラン・コルバン氏の対談が設けられ,江戸とパリの比較がなされた。二つの都市をめぐって,その地理的特徴,歴史,住人のメソタリティーや施政者の政策など,多面的な議論が展開された。たとえば,江戸は,城下町であり,城を基準に発展していった都市であるのに対し,パリは,シテ島を発祥の地に持ち,教会を中心に発展していった。
著者
渡辺 響子
出版者
明治大学人文科学研究所
雑誌
明治大学人文科学研究所年報 (ISSN:05433908)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.50-50, 2001-07-13

本研究は,小説の中に芸術家が描かれ,芸術作品の内部において芸術の逆照射が行われるという,十九世紀に入ってフランスの文学界で顕著に見られるようになった現象を考察するものである。これは,十七世紀に宮廷を舞台にした物語が生まれたのとは,全く異なるレベルの事件である。1830年の七月革命は,1789年のフランス大革命と比べると,世界史的には影響が少なかったかもしれないが,フランスにおける真の市民社会の誕生・発展にとっては大転換期となった。小説・芸術が場パトロンの手から離れて,ひとりだちし始める時期であるとも言えよう。十九世紀が小説の世紀と呼ばれるまでになった背景には,この革命とその戦利品,そしてこれによって失ったものを考えないわけにはいかない。