著者
渡辺 顕
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

母体血漿中に胎児由来のDNAが浮遊している事が報告されている。この胎児由来DNA量は妊娠中毒症や早産、また、胎児がDown症の症例で増加すると報告されている。今回、妊娠初期の胎児由来DNA量をY染色体特異的なDYS14遺伝子を定量することで評価した。302例の妊婦で検討したところ、男児妊娠例139例中135例でDYS14遺伝子を同定した。女児妊娠例ではDYS14遺伝子は検出されなかった。この胎児性別検査法のSensitivity:97.2%、Specificity:100%、Positive predictive value:100%、Negative predictive value:97.5%と精度の高い検査法であることがわかった。また、この検討で妊娠9-14週頃の症例が妊娠16週以降の症例に比較して胎児DNA量のばらつきが大きいことを見出した。妊娠9-14週で高値を示した症例について臨床的な背景、その後の妊娠合併症の発現について検討をおこなったが、妊娠中毒症や早産などとの関与はなかった。しかし、妊娠悪阻症状の強い患者が多かったことから、その関与について検討を行った。その結果、妊娠悪阻にて入院した症例は、妊娠悪阻症状を認めなかった症例にに比較し、有意に母体血漿中胎児DNA量が高値を示すことがわかった。また、母体血漿中beta-hCG濃度と胎児DNA濃度が有意に正の相関を示した。このことから、妊娠絨毛の活発な母体脱落膜への侵入などが母体の免疫系を刺激し、母児境界で両者の鬩ぎ合いが起こっていて、その結果として母体血漿中胎児DNA量が増加すると考えられた。この結果は妊娠のその病態を理解する上で重要な所見であると考えられた。