- 著者
-
渡邉 健太郎
滝田 順子
- 出版者
- 日本小児血液・がん学会
- 雑誌
- 日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.5, pp.370-375, 2019 (Released:2020-02-07)
- 参考文献数
- 22
高リスク神経芽腫の予後は現在の集学的治療をもってなお不良であり,また濃厚な治療による合併症も多く見られることから,基礎研究による新規治療の創出に対する要望は大きい.しかし,従来のドライバーとなる遺伝子異常を発見する戦略では,特に神経芽腫に対しては発展に限界がある.一方で,近年がん細胞には特有の細胞内代謝のパターン,すなわち「がん代謝」とよばれる特徴があることが注目されている.がん代謝はがん細胞の性質を規定するのみならず,その過剰な最適化がロバストネスの消失をもたらすことを利用した治療応用が期待されている.このような背景から,我々は神経芽腫に対してエピゲノム解析および代謝解析などを組み合わせた多層性解析を試みている.検体解析および既存のデータを併用し,PHGDH遺伝子により制御されるセリン合成経路の重要性に着目した.この経路の抑制はin vitroにおいて神経芽腫細胞の増殖抑制をもたらし,有望な治療標的候補になりうると考えられた.また,メタボローム解析による投薬時の代謝解析およびRNAシークエンスによる遺伝子発現状況の解析を複合して行うことで,アルギニン代謝・シスチン代謝への干渉を複合することがさらなる治療効果をもたらす可能性があることを示した.