著者
根本 学 佐藤 陽二 後藤 英昭 澤田 祐介 行岡 哲男 松田 博青 島崎 修次
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.12, pp.717-724, 1999-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
13

乗車用安全帽(以下ヘルメット)の着用が頭部保護に関し,効果の高いことは周知のごとくである。一方,臨床の場ではヘルメットを着用していたにもかかわらず,頭部・顔面外傷にて救急医療施設に搬送される患者は少なくない。ヘルメットは日本工業規格(以下JIS規格)により3種類(A種,B種,C種)に分類されており,一般使用者の多くはA種もしくはC種を着用している。臨床検討として,過去2年間に経験した着用ヘルメットが判明している二輪車事故患者157例を対象とし,頭部・顔面外傷の有無とその損傷部位,および着用ヘルメットにつき検討した。実験的研究として,同一条件下で市販されているJIS規格AおよびC種ヘルメットの衝撃吸収試験を行った。統計学的検討はχ2検定およびt検定を用いて行い,危険率5%未満を有意とした。また,実験における測定値は,平均値±標準偏差で表示した。臨床例では157例中,A種着用群は56例,C種着用群は101例であった。頭部・顔面外傷の頻度はA種着用群60.7%であり,C種着用群25.7%に対し有意(p<0.001)に多かった。衝撃吸収試験ではA種よりC種が有意差(p<0.001)をもってすぐれた衝撃吸収能を示した。とくに376cmからの落下実験では,A種で脳に損傷を与えるとされている衝撃加速度400Gを超える値が測定された。JIS規格では125cc以下の排気量に対し,A種ヘルメットの着用を許可しているが,今回の検討でA種ヘルメットの危険性が判明した。ヘルメットの生産・販売にあたり,消費者に保護性能を明確に伝え,消費者自身がヘルメットの機能を認識することが大切であり,今後,現状に見合ったJIS規格の再検討が必要と考える。
著者
山田 浩二郎 山本 五十年 宮田 敬博 有嶋 拓郎 澤田 祐介 島田 康弘 橋本 俊賢
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.261-270, 1994

わが国における医師常駐型ドクターカー制度導入の可能性と救急搬送システムの問題点を検討する目的で,フィールド研究を施行した。調査は,1991年1月21日から1月30日(10日間),愛知県名古屋市中区消防本部に医師が常駐し,すべての救急搬送要請事例について救急車に同乗し行った。搬送要請事例は55例(外因性30例,内因性24例,誤報1例),うち52例を搬送した。患者は男33例,女21例,平均年齢44.5±21.3歳であった。現場または救急車内における処置施行例は37例,救命処置施行例は1例であった。搬送時間は覚知~現場到着が4.8±2.2分,現場到着~救急車収容が8.4±85分,覚知~医療機関搬入が22.2±9.0分であった(平均±標準偏差)。重症患者,深夜帯(午前2時から午前6時)では全搬送時間が増大する傾向を認めた。全搬送時間は現場時間(現場到着~救急車収容)と救急車内時間(救急車収容~医療機関搬入)とおのおの正の相関(p<0.0005)を認めた。相関係数の差の検討の結果,p<0.05をもって救急車内時間がより深く関係していた。本調査により,以下の結論を得た。(1)搬送事例の98.1%は現行の救急隊員の技能で対応可能であり,1日あたりの出動件数は5.5回であることより,今回の調査地域において1消防機関1医師常駐型ドクターカー制度導入は非効率的である。効率と効果を考慮するならば,(1)搭乗医師の確保,(2)覚知より10~15分以内に到達可能でしかもより広い管轄範囲の設定,(3)出動システムの整備など救急司令をも含む抜本的な救急搬送システムの改善が必要である。(2)救急車内時間の増大は,搬送医療機関決定の遅れ,搬送距離の増大を反映するものと推察された。(3)現行の救急司令情報では現場到着前に患者の状態の推測は困難であり,救急救命士制度,ドクターカー制度のいずれの導入においても救急司令システムの高度化が必要であると思われた。