著者
高橋 聡美 濃沼 信夫 伊藤 道哉 金子 さゆり
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.17-25, 2010 (Released:2010-10-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

統合失調症患者の在宅医療が進められる中,病院から地域への療養の場を移した患者のQOLの状態を把握することは,現在進められている施策の評価や今後の精神科領域における在宅医療推進の参考になると考えられる。本研究では,包括的QOL尺度EQ-5Dと,精神疾患特異的尺度QOLIを用い,入院群と地域群のQOLを測定し両者のQOLの差異を明確にし,現在進められている地域医療政策の意義を考察した。調査期間は平成17年10月∼平成18年6月で,クライテリアを満たす外来患者39名,入院患者68名合計107名を対象に面接調査を行った。調査の結果,入院群に関してはプライバシーを確保することが患者のQOL向上につながるひとつの要因であると考えられた。また,地域群の中でもグループホーム居住者は他の群に比べ,生活の満足度が高く,退院後の受け入れ先として患者にとって良好な環境であることが示唆された。
著者
濃沼 信夫 伊藤 道哉
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

最近の癌治療は、初期治療に加えて長期フォローアップの重要性が増している。技術進歩等で長期生存者が増加し、失われた機能の回復や再発の防止が大きな課題になってきたためである。しかし、フォローアップの方法や有効性について、経済面からの検討はほとんどなされていない。本研究は、癌手術後のフォローアップ体制や投じる資源の妥当性を、医療経済の観点から検証することを目的とする。大腸癌の術後ファローアップを類型化し、再発形式、生存予後、患者QOL、医療費を比較するシステムモデルをMarkovモデルに準じて開発した。モデルのパラメータの算出には、大腸癌術後フォローアップ研究会に登録されたデータ(大学病院を中心とする全国16施設、結腸癌3,092例、直腸癌2,507例、観察期間5年)を用いた。モデルにこれらパラメータを投入して、費用便益分析等を実施した。Stage Iの結腸癌は814例、直腸癌は785例である。これらの癌の術後フォローアップによる救命数増加は各4.0%、5.5%であり、純便益は各9,221万円、1億6,396万円、医療費の減少は各768万円、1,056万円、費用と便益の差額は各3億5,943万円、1億2,735万円である。再発後生存率は、現在、結腸癌15.0%、直腸癌33.3%である。すなわち、医療経済の観点からは、結腸癌ではファローアップ費用の低減が絶対条件となり、直腸癌では再発後生存率を改善することが重要と考えられる。一方、Stage IIの結腸癌は1,270例、直腸癌は790例である。このうち再発は各170例、180例、再発後の生存数は各47例、35例である。フォローアップの平均費用を、平成16年の医科診療報酬点数表をもとに算出すると、再発1人発見に要する費用は、結腸癌195万円、直腸癌132万円である。また、1人救命に要する費用は各704万円、679万円であり、これは社会的に支出を容認されうる水準と考えられる。フォローアップによる救命数増加は、結腸癌18.5%、直腸癌13.0%である。大腸癌術後フォローアップの経済的効果は十分高いと考えられる。