著者
笹谷 めぐみ 徐 衍賓 本田 浩章 濱崎 幹也 楠 洋一郎 渡邊 敦光 増田 雄司 神谷 研二
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.44, 2011

放射線の重大な生物影響の1つに発がんがある。広島長崎の原爆被ばく者の疫学研究から、放射線が発がんリスクを増加させることが明らかにされているが、100mSv以下の低線量域においては有意な増加は得られていない。放射線発がんの分子機構の解明は、発がんのリスク評価につながると考えられているが、放射線照射後の細胞内で誘発された損傷がどのように発がんに結びつくかは明らかではない。我々は、放射線発がんの分子機構を解明するために、実験動物モデルを用いてより単純化した系での解析を行うことを試みた。実験動物モデルとして、修復機構の1つである損傷乗り越えDNA合成に着目し、その中で中心的な役割を担うRev1を過剰発現するマウスを作成し、発がん実験を行った。また、ヒト家族性大腸ポリポーシスのモデルマウスであるAPC<SUP>Min/+</SUP>マウスを用いて掛け合わせを行った。研究の先行している化学発がん実験結果や、放射線分割照射により誘発された胸腺リンパ腫を用いた解析から、がん抑制遺伝子であるikaros領域の欠失および、それに伴うikarosスプライシングバリアントの出現が放射線分割照射における特徴的な損傷として検出された。損傷乗り越えDNA合成機構の異常は、このikarosスプライシングバリアントの出現頻度に寄与していると示唆される結果を得ている。また、損傷乗り越え合成機構の異常は、APC<SUP>Min/+</SUP>マウスモデル系における自然発生腸管腺腫を有意に増加させる結果が得られ、損傷乗り越えDNA合成機構がゲノムの安定性を維持するために機能していることが明らかになった。今回はこれらの結果について報告したい。