著者
二宮 麻里 濵 満久
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.55-65, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
28

近年,いかに顧客の「経験価値」を高めるかということが課題になっている。それに対し小売業では,店舗ごとに「特別感」を演出することも行われている。顧客への個別対応は,独立小売商に強みがあるといえるが,販売局面の属人的コミュニケーションだけでは十分でない。そのためには,生産局面にまで踏み込んだ仕入れ活動による品揃えの差別化が課題となる。しかし,経営資源の限られた零細小売商にとって品揃えの差別化がどのようにおこなわれるのか,その実態はほとんど明らかではない。個別小売商の経営実態をとらえるには,特定業種における小売商の品揃え形成活動にまで立ち入って分析する必要がある。そこで,本稿では野菜・果実小売業「やおや植木商店」を事例として,経営実態を分析した。従来の研究では,小売商の活動についても,商品取扱い技術についても,仕入・販売局面のみに絞られていたが,植木商店は,生産と消費の局面にも積極的に介入し,その結果として新たな需要を生み出していることが見出された。