- 著者
-
萩野 貴史
- 出版者
- 名古屋学院大学総合研究所
- 雑誌
- 名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.4, pp.187-205, 2017-03-31
わが国の刑法学では,死体遺棄罪の「遺棄」概念について,これまで議論が活発とはいえない状況にあった。しかし,現在の社会状況や近時の判例に鑑みると,これを検討する意義は少なくないように思われる。 そこで,本稿では,死体遺棄罪における「遺棄」概念の内容を検討し,その処罰範囲について一定の視座を与えることを目的とする。 そのために,まず日本の刑法における死体遺棄罪の沿革を概観したうえで,刑法学において法益を明らかにすることが当該条文の解釈に際して指針となるとされている点に鑑みて,死体遺棄罪の保護法益を検討する。その後に,死体遺棄罪の「遺棄」概念について他分野の知見を参照しつつ,一定の視座を提供する。最後に,不作為による「遺棄」概念についても触れることとするが,不真正不作為犯に関する総論的な視点も必要となるため,私見を展開する前段階として,現在の議論状況とその検討課題を明らかにする。