著者
瀧川 裕貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.215-223, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
17
被引用文献数
2

社会階層研究における理論の不在が指摘されるようになってすでに久しい.産業化の進展に伴う階級間の機会格差の消滅を予言した近代化理論と逆に階級対立の激化を予言したマルクス主義は,ともに決定的に誤っていたことが明らかになった(原・盛山 1999).その後に提唱されたいわゆるFJH 仮説は,産業化諸国における社会移動の「機会格差」の質的パタンの同一性を主張するもので,確かに実証データとの適合度は高い(Featherman et al. 1975).だがこの仮説は,なぜ産業化が進展した後でも階級間の「機会格差」が残り続けるのかを,理論的に説明するものではない. もう少し的を絞った問題としては教育,特に高等教育への進学における社会階層格差の存続をいかにして説明するべきかという問題がある.もちろん,これは社会階層全般における持続的不平等の問題と密接に関連している.高等教育を媒介として階層間の機会格差が持続するからである.さて,高等教育における持続的不平等とは,産業化の進展に伴い教育機会は全般的に大きく拡大したにもかかわらず,階層間の進学率の格差が残り続ける現象をいう.このような現象は,いくつかの例外を除き産業化を達成した諸国において共通に観察されている. 高等教育における持続的不平等の問題については,近年になっていくつかの注目すべき理論的考察が提出されてきている.なかでもR.ブリーンとJ.ゴールドソープが提唱した相対的リスク回避モデルは,大きな注目を集め,多くの実証的追試を産んだ3), 4).にもかかわらず彼らの相対的リスク回避モデルの定式化は不必要に煩雑であり,かつ多くの点で理論的な問いに答えるためには不十分であることは否めない.そこで,本稿ではブリーンとゴールドソープのモデルに対して筆者が与えた新たな定式化を紹介し,このモデルの意義と限界について説明を試みたい.
著者
瀧川 裕貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.132-148, 2018

<p> 近年の情報コミュニケーション技術の発展により,われわれの社会的世界は劇的な変容を遂げている.また,これらの発展により,社会的世界についてのデジタルデータが急速に蓄積されつつある.デジタルデータを用いて社会現象のリアリティとメカニズムの解明を試みる新しい社会科学のことを計算社会科学と呼ぶ.本稿では計算社会科学の現状と課題について,特に社会学との関係を中心に概観する.計算社会科学に対して独自の定義を試みた後,計算社会科学がなぜ社会学にとって特別な意味をもつのかを説明する.また,計算社会科学のデータの新しさがどこにあるのかを明らかにし,計算社会科学の分析手法について解説する.最後に,計算社会科学の課題について述べる.</p>
著者
瀧川 裕貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.21-39, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿の目的は互恵性基底的平等の規範理論を提案することである。互恵性基底的平等の理論は、現在の主流理論たる平等の権利モデルに対する代替案となることをめざしている。互恵性をゲーム理論の形式を用いて定式化した後に、権利モデルとの対比において互恵性基底的理論の特質として次の3点を抽出する。それは、(1)相互行為的、(2)他者関与的、(3)対他責任、の3つである。その上で、互恵性と平等との関係について考察する。中心的に問われるのは、互恵性が自然的能力の不平等を再生産するという理解は正しいかどうかということ、互恵性原理には分配的平等を支持する側面が存在するのかどうかということ、である。前者の問いには否定的に答えられることを、後者に関しては価値としての互恵性という考えを用いて肯定的に答えられることを論じる。このようにして互恵性から出発して平等の理論を構築する方向性が示される。