著者
田中 潤 瀬戸口 佳史 今村 克幸 松本 秀也 中島 洋明 大勝 洋祐
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0915-B0915, 2005

【はじめに】チャーグ-ストラウス症候群(Churg-Strauss Syndrome:CCSと略す)は稀な疾患で、好発年齢は40歳代である。病因として気管支喘息、好酸球増多が先行し、血管炎症候が特徴である。神経症状では多発性単神経炎が高率に認められる。知覚・運動障害が出現し上肢よりも下肢の障害が重度であり、理学療法(以下PT)が必要とされる。今回PTを施行し家庭復帰が可能となった。また本人・家族の同意を得ることもできたので報告する。<BR>【症例紹介】43歳、女性、診断名:CCSによる多発性単神経炎。現病歴は先行症状として38歳頃から難治性気管支喘息があり、平成15年2月頃から食思が低下し、るいそうの進行、四肢のしびれ、脱力、筋萎縮が生じ、半年で体重が約20kg減少した。同年11月に腹痛で救急搬送され前医に入院、腸管膜動脈血栓症にてS状結腸が穿孔しており手術にてストーマ造設された。平成16年2月27日に当院へ転院し、病歴、重度の末梢性多発神経炎の所見、免疫学的検査(好酸球26%、MPO-ANCA80)、神経生検などからCCSと確定診断される。ステロイドホルモンによる治療が開始された。<BR>【PT評価】身長152cm、体重35.9kg、四肢末梢部に紫斑著明。しびれと冷感がある。MMT:両上肢PからG、体幹F、両下肢P-からFであり筋力低下は遠位部に著明であった。握力右2Kg、左4Kg。ROM-T:正常。感覚:両上肢、両下肢、表在・深部ともに重度鈍麻。歩行は、歩行器介助にて休憩を含み約50mがようやく可能で、下垂足による鶏歩を認めた。訓練用の階段で12cmの段差が介助で可能。ADL-TはFIM運動項目(91点満点)にて81点。<BR>【経過・理学療法プログラム】筋力増強・ROM訓練、視覚的フィードバックをさせながらの立位、歩行訓練やADL訓練、パラフィン浴を実施した。1ヵ月後、易疲労性であるも介助にて自室からリハ室まで歩行器で移動可能。体重37kg、握力右5kg、左9kg。2ヵ月後、T字杖使用し屋内歩行は監視レベル、屋外歩行は約100m軽介助レベル。FIM88点。3ヵ月後、筋力は全身的にF~G、表在・深部感覚ともに重度鈍麻であるが極軽度の改善を認めた。しびれの変化なし。T字杖使用し屋内・屋外歩行・階段昇降は自立。FIM90点。体重39Kg、握力右6Kg、左10Kgとなり、同年5月に家庭復帰した。<BR>【考察】本症例は筋力低下に加えて表在・深部覚ともに重度鈍麻で起立・歩行が困難な症例であった。今回視覚的フィードバックを意識したPTを実施したところ、歩行を獲得し家庭復帰が可能となった。小松は、自己身体が環境に対して移動することにより網膜像が変化し、その網膜像の変化を生じる原因となった自己運動を分析すると報告している。これより体性感覚のフィドーバックが困難でも、視覚刺激によるフィードバックにより残存している身体機能を活性化しボディーイメージを再構築できたと考えられる。また回復への意欲も高かったことがPTを進めていく上で効果的に働き、歩行の獲得につながったと考えられる。
著者
堤 恵志郎 大重 匡 瀬戸口 佳史 大勝 祥祐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P1096, 2009

【目的】慢性呼吸不全患者は呼吸困難・息切れ時に呼吸の回復を目的として、上半身を前傾させ、上肢を肩から垂らすことなく、ものの上に置く肢位をとる.しかし、運動によって呼吸循環反応が亢進した後の回復過程を、座位姿勢で比較している報告は見当たらない.そこで今回、前傾座位姿勢によって生じる影響を明らかにすることを目的とし、健常者を対象に呼吸循環反応亢進後の回復過程を、自然座位と前傾座位とで比較し検討した.<BR><BR>【対象】対象者は健常若年男性12名(22.2±0.9歳、174.7±6cm、66.2±9.2kg)とした.各対象者には本研究の目的、方法を説明し同意を得た.なお、本研究は鹿児島大学研究倫理委員会にて承認を得ている.<BR><BR>【方法】まず対象者には、椅子座位にて5分間の安静座位を取らせる.この安静座位には、背もたれにもたれずに上肢を体側に垂らした座位(自然座位)、体幹を前傾させ両肘を各膝につけた座位(前傾座位)の2条件とした.その後、5分間のトレッドミル歩行を行わせ、それぞれ5分間の安静座位と同じ姿勢で回復過程を測定した.測定パラメータは、安静座位時、回復過程の0、3、6、9分時における心拍数、血圧、SPO<SUB>2</SUB>、RPEとした.統計学的処理は、安静時・回復過程0分値において、対応のあるt検定を用いて比較した.そして、2条件間における回復過程を比較するために2元配置分散分析を行い、交互作用の有無を検定した.その後の検定としてTukey法による多重比較を行った.<BR><BR>【結果】両条件間の安静時・回復過程0分では、いずれの値においても有意差は示されなかった.回復過程では、心拍数において両条件間に交互作用が認められ、回復過程3、6、9分時時点の値は、それぞれ自然座位と比較して前傾座位で有意に低値であった.しかし、SPO<SUB>2</SUB>、血圧、RPEでは、いずれも両条件間で有意差は示されなかった.<BR><BR>【考察】前傾座位で心拍数の回復が早かったのは、呼吸パターンが深くなり、酸素の取り込み量を高く維持し得る状況下にあったためと考える.これは、体幹を前傾させ上肢を支持することで、肩甲骨の固定がなされ、呼吸補助筋である肩甲帯挙上筋群の緊張が解かれたためと考える.また体幹を前傾することにより、腹壁の緊張を解き、横隔膜の降下を容易にすることで呼吸を整えることができたためとも考える.そして、静脈還流量は筋ポンプ作用に加えて胸腔内圧の陰圧による呼吸ポンプ作用によって維持されており、この深い呼吸パターンがこの呼吸ポンプ作用を増し、Frank-Starling機序によって1回心拍出量が増加したと推察される.つまり、前傾座位をとることで、深い呼吸パターンとなり1回心拍出量が増加し、心拍数の回復を早めるにもかかわらず、血管にかかる負担やRPEが自然座位と差がないということが示唆された.