著者
寒川 恒夫 石井 浩一 安冨 俊雄 瀬戸口 照夫 宇佐美 隆憲
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では,(1)日本の民族スポーツの実施状況を地方誌など主に文献資料によって把握し,次にその基礎の上に(2)47都道府県について各1〜2事例を選んで現地フィールドワーク(参与観察と聞き取り調査)をおこない,個々の事例の変容過程を明らかにした上で,変容の諸傾向を抽出することに目的が置かれた。研究目的の(1)については,対象事例が年中行事化しているものに限ったが,(a)実施頻度に地域差がみられること,(b)日本列島全体に実施が及ぶ種目と特定地域に実施が限定される種目があり,種目間に分布差がみられることが明らかにされた。研究目的の(2)については,観光化変容,行政公共化変容,簡素化変容,競技化変容の諸傾向が抽出された。観光化変容とは,民族スポーツが地域の経済振興のための観光資源としてその内容を変化させられてゆく現象という。行政公共化変容は,従来特定の集団に伝承されてきた民族スポーツが諸種の理由から主催権を市町村など行政当局に委譲したことによる変容を指している。簡素化変容は,人口減や経済的負担の増加などの理由から,主催集団が民族スポーツの規模や内容を簡略化する現象をいう。競技化変容は,それまで競争の形式をとっていなかった民俗行事が競技の体裁を取ってゆく現象をいう。これら4つの傾向は,それぞれを独自に生起する場合もあれば,その中のいくつかが複合する場合もある。