- 著者
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熊谷 成将
- 出版者
- 公益財団法人 医療科学研究所
- 雑誌
- 医療と社会 (ISSN:09169202)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.3, pp.39-59, 2003-12-10 (Released:2012-11-27)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
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本稿では,わが国の医療扶助に関し,時系列データとパネルデータを用いた実証分析が行なわれた。時系列データを用いた分析の主要な結果は,以下の3点である。第1は,入院・入院外のサービス差の存在が明らかになったことである。入院は,診療件数と1件あたり受給額がほぼ適切であったが,入院外は1980年代半ば以降,1件あたり受給額に関して不十分であったと考えられる。第2は,医療扶助の政策変数として有用な変数は,1件あたり受給額であることである。第3は,1件あたり受給額の構造ショックに対して,診療件数は非弾力的であることである。他方,都道府県データによる分析の結果,見出されたことは次の2点である。第1は,政府から家計への所得移転は,貧困層の健康水準を改善するために寄与していることであり,第2は,被生活保護者への所得分配率が相対的に高い都道府県では,医療扶助受給者の健康改善度が高くなる傾向があることである。この研究から得られた政策的含意は次の通りである。失業率が上昇する局面において,貧困層の健康水準の悪化を防ぐために,被生活保護者への所得分配率が相対的に低い地域では,政府から家計への所得移転を増やす必要があろう。中でも,入院外の医療扶助サービスは,従来よりも1件あたりの受給額を増額することが望ましいと思われる。