著者
牛尾 裕美
出版者
東海大学海洋学部
雑誌
東海大学紀要. 海洋学部 (ISSN:13487620)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.73-83, 2005-03-30

本稿において検討した「北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約」[以下, 本条約と略称]は, 北緯33度以北の北太平洋及びその接続海域にある公海において, 条約規定の7種類の溯河性魚類を対象とした漁獲の禁止と当該魚種の混獲を最小化することにより, 溯河性魚類の保存を促進し, 本条約の締約国である母川国の当該魚類に対する「第一義的利益」を徹底・強化しようとするものである. そこにおいてはまず, 本条約の締約国ではない国・団体が,条約区域内において条約違反の漁獲・混獲を行った場合, 国連海洋法条約及び慣習国際法との関係において, 当該漁獲・混獲の合法性の問題が生じる. 次に本条約は, 締約国に, 自国籍船が本条約規定を免れるために船籍を変更することを防止するための措置を義務づけているが, 実効性の面で疑義が呈される.更に本条約は, 条約違反の漁獲を防止するために, 合法的に採捕された当該魚類の製品であることを証明する原産地証明書に関する計画の策定を予定しているが, その策定に関しては, 締約国間における統一的・厳格な規定の制定が必要であろう. また本条約は, 条約違反の漁獲を海上において直接取り締まる権限を各締約国に与えているが, 広大な条約区域をカバーする取締手段の不足が指摘されている. 最後に, 本条約の締約国は, 当該魚類に対し「第一義的責任」も有しており, 自国EEZ内において, 総漁獲可能量とともに自国の漁獲能力を決定し, その余剰分については他国による漁獲を認めることが, 広大な公海海域での当該魚類の漁獲を禁止し, 自国EEZ内のみでの漁獲に限定した締約国の国際的責務と言えよう.
著者
川崎 一平 牛尾 裕美 山田 吉彦
出版者
東海大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は、研究最終年度であり、主として本研究の成果発表、及び政策現場での実践的活動に研究の主眼をおいた。研究代表者の川崎は、(1)海洋開発シンポジウムにて奄美の振興政策と親族構造の関わりについて、著しい社会変容において伝統的親族構造が原理として存続していることを発表、(2)また第25回北方圏国際シンポジウムにて沖縄、奄美の離島振興において「離島文化」が重要視されていることを発表した(研究協力者の小野林太郎も共同発表)。実践的活動としては、分担者山田と共に(3)国境政策との関わりにおいて地域振興が展開されている根室市において地域社会の文化と深く根付いたエコツーリズムのモニタリングを実施した。分担者の山田吉彦は、川崎と共に北海道根室市での調査を実施するほか、沖縄県石垣市、竹富町において、海洋政策の市民政策への影響に関し調査を行った。これらの研究成果としては、土木学会海洋開発委員会に論文「わが国の海洋政策における国境離島開発の動向」を発表するほか、単著「日本は世界4位の海洋大国」を講談社より出版した。実践的研究としては、竹富町が策定した「海洋基本計画」に策定委員長として参加し、同計画の策定に本研究の成果を反映した。分担者の牛尾裕美は、「海洋基本法」の制定から「海洋基本計画」の策定に関する一連の政策決定過程おいて中心的役割を果たした「海洋基本法フォローアップ研究会」の議事録を(社)海洋産業研究会において調査することにより、現在の離島に関する法政策の基本的指針の決定過程の検討を行った。また、上記の基本方針において、上記の基本計画からその政策転換が図られた離島の振興に関する代表例としての「奄美群島振興開発特別措置法」の最新の改正法に基づく奄美群島民の「新たな公共」の実現に向けての創造的取組について奄美群島広域事務組合及び奄美市役所において聴取を行った。