著者
牧 陽之助
出版者
The Japanese Society of Limnology
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.227-231, 1995
被引用文献数
1

1991年の7月,松尾五色沼の湖色が,「あお」から「あか」に変わった。この変化は,春には「あお」く,夏に「しろ」くなって,秋から冬には「あか」くなるという,通常の規則的な湖色変化とは異なるものであった。この現象を説明するために,1990年から1994年の5年間の湖色変化と,水温・溶存酸素濃度・降水量・風向・風速との関連を検討した。その結果,1991年の6月と7月には日雨量が50mmを超える強い風を伴った降雨が繰り返し起きた事がわかった。<BR>この時期には,停滞していた表層水の溶存酸素は1mgO2・l以下であったが,2mg O<SUB>2</SUB>・1<SUP>-1</SUP>以上の富酸素水の「くさび」が数回観測された。・以上の知見から,1991年の夏には,強い風を伴った多量の降雨が頻発し,一時的に表層水の溶存酸素量が増加し,その結果,硫化水素の酸化反応に加えて,鉄(II)イオンの酸化がすすみ,湖色が「あか」くなったと推察した。
著者
藤原 義弘 小島 茂明 溝田 智俊 牧 陽之助 藤倉 克則
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.307-316, 2000-12-31
被引用文献数
5

日本海溝の超深海域より採集したオトヒメハマグリ科ナラクシロウリガイCalyptogena fossajaponicaの共生細菌の性状を明らかにするため, 形態観察, 硫黄含有量および同位体組成分析, 分子系統解析を行った。透過型電子顕微鏡観察により, この二枚貝の鰓上皮細胞中に多数の細菌を確認した。また, この二枚貝の軟体部の硫黄含有量と硫黄同位体組成の解析により, 硫黄細菌の存在を示唆する結果を得た。更に, この細菌の16SリボソームRNA遺伝子配列を決定し, 系統解析を行ったところ, この細菌は深海の熱水噴出域, 冷水湧出域に生息する他のオトヒメハマグリ科二枚貝の共生硫黄細菌と近縁であった。この共生細菌はガラパゴスシロウリガイ, ナギナタシロウリガイおよびフロリダ海底崖産シロウリガイ類の1種の共生細菌と単系統群を形成した。これら4種の二枚貝は他の多くのシロウリガイ類に比べて大深度に分布していた。シロウリガイ類は種ごとに垂直分布が異なることが知られているが, このような垂直分布様式の違いはそれぞれの共生細菌の影響を受けているのかもしれない。