- 著者
-
嶋田 哲郎
溝田 智俊
- 出版者
- 日本鳥学会
- 雑誌
- 日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.1, pp.52-62, 2011 (Released:2011-05-28)
- 参考文献数
- 60
- 被引用文献数
-
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マガン個体数が回復・増加した1975年から2005年の30年間における農産業の変化とそれにともなうマガンの食物資源量の変化および農作物被害の発生とについて,日本最大の越冬地である宮城県北部における経緯について論じた.1975~2005年にかけての減反政策にともない,水田面積は30%減少した.その間,圃場整備率は30%から61%に上昇し,それにともないバインダーからより落ち籾量の多いコンバインへの置換が進んだ.落ち籾現存量は,1975年から1995年にかけて2倍に増加したが,1995年以降は頭打ちとなった.1990年代後半になると,転作作物,中でも大豆の作付面積が増加した.落ち籾現存量をあわせた食物資源量全体をみると,落ち籾現存量は1995年以降頭打ちになったものの,その分を補填する形で転作作物現存量の増加にともなって食物資源量全体は増加した.こうした農地の利用形態の変化とマガンの個体数増加は,マガンが利用する採食地分布にも変化をひきおこした.2000年以降になると麦類や野菜類などへの農作物被害が顕在化した.被害はマガン個体数増加にともない落ち籾や落ち大豆などの収穫残滓を早期に食べ尽くすようになり,選択の余地のない必然的な状態で生じていた.しかしながら,捕食圧の低い場合には農作物の生産性を高める例もあり,適切な個体数管理によって農業に利益をもたらす可能性があることを示唆している.本稿は人間社会が本種に与える影響の強さを明らかにしたものであり,人間社会をモニタリングすることが本種の保全管理の上で必要不可欠であることが示された.