著者
溝田 智俊 佐々木 みなみ 山中 寿朗
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.115-130, 2007-11-01 (Released:2007-11-17)
参考文献数
25
被引用文献数
1 7

カワウ,アオサギおよびゴイサギの営巣地下にある2地域の土壌(福島県本宮および福岡県久留米)について,窒素動態を無機態窒素含量と安定同位体比の時系列変動を指標として解析した.顕著に高い無機態窒素含量(8 g/kg乾土)が孵化と雛の成長期に見出された.巣立ちと営巣地から見られなくなった後,無機態窒素含量は急速に低下した.土壌の硝化活性は,やや冷涼な本宮営巣区にくらべて温暖な久留米営巣区で高かった.硝化と連動した脱窒過程が繁殖期後期に顕著であることが特異的に高い硝酸態窒素の同位体比から推察された.カワウは繁殖およびねぐらとして1年を通じて森林を利用するために,土壌に連続的に糞窒素が搬入される.その結果,一時的に利用するサギ類に比較してカワウ営巣区ではアンモニア生成速度が高く維持されると推定された.
著者
嶋田 哲郎 溝田 智俊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.52-62, 2011 (Released:2011-05-28)
参考文献数
60
被引用文献数
3 2

マガン個体数が回復・増加した1975年から2005年の30年間における農産業の変化とそれにともなうマガンの食物資源量の変化および農作物被害の発生とについて,日本最大の越冬地である宮城県北部における経緯について論じた.1975~2005年にかけての減反政策にともない,水田面積は30%減少した.その間,圃場整備率は30%から61%に上昇し,それにともないバインダーからより落ち籾量の多いコンバインへの置換が進んだ.落ち籾現存量は,1975年から1995年にかけて2倍に増加したが,1995年以降は頭打ちとなった.1990年代後半になると,転作作物,中でも大豆の作付面積が増加した.落ち籾現存量をあわせた食物資源量全体をみると,落ち籾現存量は1995年以降頭打ちになったものの,その分を補填する形で転作作物現存量の増加にともなって食物資源量全体は増加した.こうした農地の利用形態の変化とマガンの個体数増加は,マガンが利用する採食地分布にも変化をひきおこした.2000年以降になると麦類や野菜類などへの農作物被害が顕在化した.被害はマガン個体数増加にともない落ち籾や落ち大豆などの収穫残滓を早期に食べ尽くすようになり,選択の余地のない必然的な状態で生じていた.しかしながら,捕食圧の低い場合には農作物の生産性を高める例もあり,適切な個体数管理によって農業に利益をもたらす可能性があることを示唆している.本稿は人間社会が本種に与える影響の強さを明らかにしたものであり,人間社会をモニタリングすることが本種の保全管理の上で必要不可欠であることが示された.
著者
江原 宏 HARLEY Madeline M. BAKER William J. DRANSFIELD John 内藤 整 溝田 智俊
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.121-126, 2006

サゴヤシ (<I>Metyoxylon sagu</I> Rottb.) の種内形質変異を検討するため, インドネシアの西パプア (イリアンジャヤ) に生育する有刺folk varietyおよび西スマトラに生育する無刺folk varietyの乾燥標本から得た花粉の形態を調査比較した.両folk varietyとも1個体に両性花と雄花の両方を着生し, いずれのfolk varietyでも両性花と雄花のサイズに大きな違いはなく, 雄花では雌蕊は退化していた.両性花と雄花の両方とも花粉を生じ, SEM観察したところ, 花粉粒は短赤道軸上に2つの発芽孔を有する長楕円形であった.花粉形状に変異がみられたが, それは花粉壁 (エキシン) の収縮や膨張の程度の違いによるものと考えられた.また, 両folk varietyの両性花, 雄花とも花粉粒のテクタムは滑らかで疎らに穴が散在していた.このように, 花粉の外壁形質, 花粉の形状などいずれも両folk variety間に差はみられないことが明らかとなった.
著者
藤原 義弘 小島 茂明 溝田 智俊 牧 陽之助 藤倉 克則
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.307-316, 2000-12-31
被引用文献数
5

日本海溝の超深海域より採集したオトヒメハマグリ科ナラクシロウリガイCalyptogena fossajaponicaの共生細菌の性状を明らかにするため, 形態観察, 硫黄含有量および同位体組成分析, 分子系統解析を行った。透過型電子顕微鏡観察により, この二枚貝の鰓上皮細胞中に多数の細菌を確認した。また, この二枚貝の軟体部の硫黄含有量と硫黄同位体組成の解析により, 硫黄細菌の存在を示唆する結果を得た。更に, この細菌の16SリボソームRNA遺伝子配列を決定し, 系統解析を行ったところ, この細菌は深海の熱水噴出域, 冷水湧出域に生息する他のオトヒメハマグリ科二枚貝の共生硫黄細菌と近縁であった。この共生細菌はガラパゴスシロウリガイ, ナギナタシロウリガイおよびフロリダ海底崖産シロウリガイ類の1種の共生細菌と単系統群を形成した。これら4種の二枚貝は他の多くのシロウリガイ類に比べて大深度に分布していた。シロウリガイ類は種ごとに垂直分布が異なることが知られているが, このような垂直分布様式の違いはそれぞれの共生細菌の影響を受けているのかもしれない。