著者
狩野 素朗
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
教育・社会心理学研究 (ISSN:0387852X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.73-82, 1967

構造内地位に関する4種類のグラフ論的指数を課題解決集団内のコミュニケーション構造に適用することによって各指数の妥当性を吟味した。ここで検討した各指数は, 有向グラフ (digraph) によって対応させられる集団構造内における成員の地位をあらわすもので, 強化-弱化性指数, 成員強化値指数, 等価多段階地位指数, それに荷重多段階地位指数である。<BR>本研究では実験的に設定した課題解決集団において, 各指数による成員の地位順位 (仮説順位) と, 実験によって成員が解決に達する速さとの順位に相関があることを仮定し, 各指数による仮説順位と結果順位との相関の度合の比較を試みた。<BR>課題として4名あるいは5名からなる集団による「犯人さがし」というゲームを用い, 課題解決に必要な情報伝達のために, 実験者による行動制限法を用いて5種類のコミュニケーション構造が導入された。<BR>各構造内成員の全体的課題解決順位と, 4種類の指数による成員地位順位との間の順位相関を求めた結果, 相関係数の値は強化-弱化性指数, 成員強化値指数, 等価多段階地位指数, 荷重多段階地位指数の順に大きな値を示すことが見出され, 荷重多段階地位指数は実験に用いた5種類の構造のすべての結果と有意 (p<. 01) な相関を示した。このことから課題解決集団におけるコミュニケーション構造内の地位指数の内では, 荷重多段階地位指数が成員の課題解決能率と最も高い相関を示すことが明らかとなった。<BR>多段階地位指数との相関が大であることからして, 成員の課題解決能率に影響した要因は, 本実験の条件においては, その位置の情報入手可能性の度合であろうと考察される。また間接的関係は直接的関係よりもその効果性が減少していったことについては, 本実験のコミュニケーションが, 問題解決の手段となる情報の伝達という, いわゆる道具的コミュニケーションである一方, 実際にはその伝達には何等かの自己目的的要因 (あるいは感情的効果) が介入ないし付加し, 段階数の増加にともなってその効果が大となったことのためであろうと考えられる。