著者
猪俣 孟
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.570-571, 1995-04-15

角膜後面沈着keratic precipitates (K.P.)は,虹彩炎や毛様体炎の炎症細胞,または組織の残滓や病原物質などを貪食したマクロファージが前房内に遊出し,それらが角膜後面に付着した状態をいう。前房内の温度は虹彩付近で高く,体表に近い角膜付近で比較的低い。そのために前房水は虹彩付近で上流し,角膜付近で下流する流れがある。これを温流thermal currentという。温流の関係で,前房内に遊出した細胞や物質は角膜後面下方に沈着する傾向がある。前房内の炎症細胞が角膜内皮細胞に付着する際には,眼内免疫反応が最も強い時期に細胞間接着因子intercellular adhe—sion molecule−1(ICAM−1)が角膜内皮細胞に強く発現し,炎症細胞が角膜後面に付着しやすい状態にある。 臨床的に,角膜後面沈着は豚脂様角膜後面沈着Inutton fat K.P.微塵状角膜後面沈着fine K.P.,色素性角膜後面沈着pigmented K.P.の3種が識別される。
著者
向野 利彦 猪俣 孟
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.1454-1455, 1993-08-15

網膜格子変性lattice degeneration of the ret—inaは,検眼鏡的に赤道部から鋸状縁の間にみられ,境界が比較的明瞭な網膜の変性巣である。この病名は,変性巣を横切る血管が白線化して格子細工模様を呈することによる。裂孔原性網膜剥離の約30%は網膜格子状変性が原因で起こるので,慎重な経過観察が必要な病変である。正常眼の約10%にみられ,家族内発生も知られている。 網膜格子状変性は網膜硝子体変性症のひとつである。変性巣は鋸状縁に平行に走り,その幅は0.5〜1.5乳頭径で,長さは短いもので約2乳頭径,長いものではときに1象限をこえる。変性巣の辺縁は多少隆起し,内部では網膜は菲薄化し陥凹している。変性巣上の硝子体は液化し,空洞(硝子体ポケット)を形成している。膜様の硝子体が変性巣の辺縁に付着し,後部硝子体剥離に伴い変性巣の後極縁に沿って裂孔を生じやすい。変性巣内は不透明灰白色で,種々の程度の色素遊出がみられることもある(図1)。典型的な例では白線化した血管がみられる。血管の硬化がなく色素の少ないものは早期のものと考えられる。進行すると変性巣内にしばしば円孔が発生する(図2)。
著者
猪俣 孟
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究はフォークト・小柳・原田病の病因と発症機序について、臨床および実験病理学的に明らかにし、本症の予防および治療法の確立に寄与することを目的としたものである。1)平成3年度フォークト・小柳・原田病患者の眼球を病理学的に検討した。夕焼け状眼底になっている状態でも脈絡膜にはリンパ球の浸潤があり、炎症は持続していることを明らかにした。残っている脈絡膜のメラノサイトにはHLAクラスII抗原が発現し、メラノサイトが炎症の標的になっていた。フォークト・小柳・原田病患者では脳波に異常があることを明らかにした。視細胞間結合蛋白(IRBP)を構成するペプタイドの一部(R4)をラット足蹠に注射して、実験的自己免疫ぶどう膜炎モデルを作成した。2)平成4年度フォークト・小柳・原田病患者皮膚白斑を免疫病理学的に検討した。皮膚ではメラノサイトが減少し、血管の周囲にリンパ球が浸潤していた。その多くはTリンパ球で、CD4陽性細胞とCD8陽性細胞の比は約3:1であった。皮膚の白斑でも活性化Tリンパ球が病変の形成に重要な役割を演じていた。実験的自己免疫ぶどう膜炎では、角膜内皮細胞の表面に細胞接着分子(Intercellular Adhesion Molecule-1:ICAM-1)が発現していた。3)平成5年度実験的に眼内炎症を繰り返し起こさせることによって脈絡膜新生血管が発生した。そこで、臨床的および実験病学的に眼内血管新生の機序について検討した。ベーチェット病患者の23例25眼の摘出眼球を病理学的に検討し、眼内血管新生が鋸状縁から起こり易いことを明らかにした。フォークト・小柳・原田病の臨床所見および病理学的特徴を総説にまとめた。