著者
木島 幸次 潮見 泰蔵 玄葉 文雄 高木 俊治 恩田 朋子 中村 祐一 李 嵐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0245, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】近年、動作における筋収縮の分析は、open kinetic chainに代表される個々の筋収縮を評価するものから、一連の筋群の収縮を分析するclosed kinetic chainの概念が通説となりつつある。本研究では、closed kinetic chainにおけるEBM(科学的根拠に基づく医療)の基礎研究として、椅子からの立ち上がり動作における筋収縮の順序性を下肢筋群の抗重力筋に限定し、その順序性について報告する。研究結果から、椅子からの立ち上がり動作における筋収縮順序性のパターン化の糸口になると思われる知見を得たのでその報告をすることとする。【方法】健常成人43名(男性29名)、女性14名、平均年齢 25.44±5.1歳、平均体重 62±12.1kg、平均身長166.62±8.8cm、立ち上がり速度平均2.54±0.26秒を対象とした。 各被検者が木製椅子で座位姿勢をとった時、膝関節を90度屈曲位、足関節を0度肢位になるように椅子の高さを設定して、足関節背屈15度肢位の条件で、自由に椅子からの立ち上がり動作を行わせた。立ち上がり動作の際に下肢の抗重力筋である前脛骨筋、腓腹筋、大腿四頭筋、大腿二頭筋の動作筋電図を日本光電社製MEB-9100にて測定し、その順序性を求めた。【結果】椅子からの立ち上がり動作における各筋の順序性について、前脛骨筋と腓腹筋、前脛骨筋と大腿四頭筋、前脛骨筋と大腿二頭筋、大腿四頭筋と大腿二頭筋において、それぞれ有意差が認められた(P<0.001)。その結果、上記各4筋の組み合わせは、椅子からの立ち上がり動作において(1)前脛骨筋→腓腹筋→大腿四頭筋→大腿二頭筋:34.9%(2)前脛骨筋→大腿四頭筋→大腿二頭筋→腓腹筋:23.2%(3)前脛骨筋→大腿四頭筋→腓腹筋→大腿二頭筋:4.6%、(1)と(2)、(2)と(3)の要素を含んだ組み合わせ:13.9%で合計76.6%となり、概ね3パターンの組み合わせに集約されることが分かった。【考察】筋収縮の順序性における組み合わせの3パターンは、いずれも前脛骨筋が最初に収縮を開始する。これは座面にある重心を体幹前傾することにより、足部支持基底面に移動するために働くためである。次に活動を開始する筋は大腿四頭筋あるいは腓腹筋である。この働きの違いについては、重心の移動の速さ、あるいは体幹傾斜角度に由来するかが示唆されるが今後の課題とする。大腿二頭筋は伸展相で働くことが明白である。 今後は、種々の条件設定の下にこれらのパターンがどのように変化するのか、あるいは臨床的にバイオフィードバックトレーニングへの応用として成果を期待してみたい。【まとめ】健常成人の自由な椅子からの立ち上がり動作において、前脛骨筋、腓腹筋、大腿四頭筋、大腿二頭筋の筋収縮の順序性は、概ね3パターンに集約されることが分かった。