- 著者
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玉利 誠
- 出版者
- 日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.C-73, 2021 (Released:2021-12-24)
ハンスフィールドによって世界初のCT装置が開発された1970年代以降,脳画像は医師が行う診断に活用されてきた。また,2000年代には拡散テンソル画像を用いて脳の白質線維を仮想的に描出する手法(拡散テンソルトラクトグラフィー)が開発され,白質線維の構造的損傷と臨床症状との関連について多くの知見が得られるようになった。さらに,近年では安静時に生じるBOLD信号を定量することにより,脳領域間の相関関係を評価することが可能となったことから(Resting state fMRI),脳卒中後に生じる各種症状と脳の構造的および機能的ネットワークとの関係について解明が進められている。 一方で,脳卒中患者に対する理学療法の歴史に目を向けると,過去には脳損傷後の脳機能は不可逆的であると考えられてきたことや,臨床現場において脳活動をリアルタイムに可視化することが困難であったことなどから,脳画像を理学療法に活用しようという機運が高まるまでには長い時間を要したようである。近年では脳画像を症状の理解や予後予測に役立てようとする理学療法士も増えており,今般の理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則改定において医用画像評価が必修化されたことなどからも,今後は「理学療法士による脳画像評価の確立」や「脳画像解析技術を用いた理学療法の効果検証への挑戦」が重要であると考える。 そこで本講演では,上記2つのテーマを神経理学療法の未来に向けて取り組むべきものとして掲げ,その達成に向けて解決していくべき課題について議論を深めたい。 1)脳画像評価の確立に向けて 脳画像を評価するためには脳の機能局在と画像形態を理解することが何より大切であるが,評価とは性質(quality),重要性(significance), 量(amount), 程度(degree), 状態(condition)などを総合的に判断して価値づけることであるため,単に脳画像を観察できるだけでは理学療法士としての脳画像評価に至らないと思われる。脳損傷時には白質の単独損傷・皮質の単独損傷・白質と皮質の複合損傷などのパターンが考えられることから,損傷領域が担う機能のみならず,白質線維で接続される他領域の機能低下の可能性も考慮する必要がある。そのため,主要な白質線維の機能を理解するとともに,その走行を脳画像上にイメージできることも重要となる。また,脳卒中後の回復には脳の構造的損傷の程度のみならず,半球間の機能的結合性の程度も影響することが知られているため,目前の患者の症状を脳画像(構造画像)のみで強引に解釈しないよう留意することも必要である。さらに,脳卒中後の回復メカニズムについては,皮質脊髄線維の興奮性から皮質間ネットワークの興奮性へ,そしてシナプス伝達の効率性へと比重が経時的に変化する可能性も示唆されていることから(回復ステージ理論),脳画像の撮像時期と患者の経過日数の関係について考慮することも重要となる。 2)脳画像解析技術を用いた理学療法の効果検証への挑戦 脳画像の解析には構造的解析と機能的解析の2つのアプローチがある。近年ではフリーウェアのソフトも多く,マニュアルも充実していることから,理学療法士も比較的容易に脳画像解析に取り組める時代となった。構造的解析には灰白質の体積を定量するVoxel-based morphometry(VBM)や白質線維の損傷程度を定量する拡散テンソルトラクトグラフィー(DTT)などがあり,機能的解析には前述したResting state fMRIなどがある。これらはMRIを有する施設であれば容易に取り組めるため,画像解析に取り組む理学療法士の育成に努めるとともに,多施設での大規模調査へと発展させ,理学療法の効果検証や脳画像評価に寄与する知見を創出していくことが重要と考える。