著者
玉野 春南
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

緑茶成分のテアニン摂取は、海馬歯状回の長期記憶と関係する神経新生を促進し、記憶の細胞レベルの分子基盤とされる長期増強(LTP)を増大させることを見出した。テアニン摂取による海馬依存性の記憶向上にはnon-NMDA受容体依存性のLTPの関与があり、海馬依存性長期記憶にはLTPの維持を基盤とすることが示された。一方で、記憶の獲得のみならず獲得した記憶の保持にも海馬神経細胞において細胞内Zn2+シグナリングが必要であることを明らかにした。さらに、細胞外Ca2+ではなく、細胞外Zn2+が過剰に流入すると、記憶獲得の障害だけでなく、保持されていた記憶もLTPの維持障害を介して消失することを明らかにした。
著者
森岡 洋貴 西尾 隆佑 竹内 梓紗 玉野 春南 武田 厚司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-38, 2018 (Released:2018-08-10)

農薬暴露はパーキンソン病の環境要因とされる。除草剤のパラコートは、NADPH酸化還元酵素等を介した酸化還元サイクルにより、活性酸素種を細胞内外で持続的に産生する。実験動物においてパラコート暴露はパーキンソン病に特徴的な黒質ドパミン作動性神経変性を惹起するが、その神経変性機序は明らかではない。本研究では、パラコートによる黒質ドパミン作動性神経変性には細胞外Zn2+流入が関与し、運動障害を惹起すると仮定し検証した。 ラットの片側黒質にパラコートを投与して2週間後、投与側黒質組織は脱落した。さらに、投与側の線条体ではドパミン作動性神経マーカーであるチロシン水酸化酵素の染色が顕著に減弱した。これより、パラコートによる黒質—線条体ドパミン作動性神経の顕著な変性が認められた。パラコートの片側黒質投与2週間後の運動障害をアポモルフィン皮下投与による回転運動回数で評価したところ、回転運動回数は増加し、運動障害が認められた。また、パラコート投与10分後において黒質細胞内Zn2+レベルは顕著に増加した。このパラコート投与による神経変性および運動障害は、細胞内Zn2+キレーターとパラコートの同時投与により改善された。パラコートによる黒質ドパミン作動性神経変性を介した運動障害には黒質ドパミン作動性神経細胞内Zn2+レベルの増加が関与することが示唆された。細胞内Zn2+レベルの増加の機序を追究するため、パラコートをラット黒質に灌流すると細胞外グルタミン酸濃度は増加した。また、脳スライスにパラコートを添加すると黒質細胞内Zn2+レベルは増加し、細胞外Zn2+キレーターならびにグルタミン酸受容体であるAMPA受容体の阻害剤存在下で抑制された。これより、パラコートは神経終末からのグルタミン酸放出を促進させ、AMPA受容体活性化を介して細胞外Zn2+が黒質ドパミン作動性神経に取り込まれることが示唆された。以上、パラコートによる黒質ドパミン作動性神経への細胞外Zn2+流入は黒質ドパミン作動性神経変性を介した運動障害の一因であることが示された。