著者
佐藤 光夫 長谷 哲成 湯川 博 田中 一大 川口 晃司 川井 久美 横井 香平
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

【本課題の目的】肺癌のドライバー癌遺伝子の一つ変異KRASは腺癌の20%程度に認められるが、その標的治療の開発は未成功である。これは変異KRASの癌化シグナルの薬物的な遮断が困難なためである。応募者は正常気管支モデルであるHBEC実験系を確立し(Sato, Cancer Res 2006)、さらに、変異KRASをHBECに導入すると悪性度の増強にもかかわらず細胞分裂を停止する現象を発見した(Sato, Mol Cancer Res 2013)。これは正常細胞が癌化を防御する機構の一つ癌遺伝子誘導細胞老化(oncogene-induced senescence; OIS)である。以上より、応募者は変異KRAS肺癌の新たな治療として変異KRASシグナルの遮断ではなく、OISを活用する治療を着想した。その実現のために、まず、HBECを用いて、OIS抑制作用を表現型とする機能的なプールshRNAスクリーニングを実施し、複数の標的候補を特定した。特に、肺癌細胞株が高発現する遺伝子Xは小分子化合物による治療標的となる可能性があるため、学内創薬産学協同研究センター(ラクオリア創薬株式会社)化合物スクリーニングを予定した(機密保持契約締結済み)。本研究はこれらの研究を発展させ、変異KRASならびに変異EGFRやALK遺伝子によるOIS誘導治療の開発を目的とする。【2018年度の成果】遺伝子Xのターゲットバリデーションを完了した。5万化合物のハイスループットスクリーニング(HTS)を実施しヒット化合物の再現性や化学構造に基づき、2018年12月までに候補化合物を10個まで絞り込んだ。また、遺伝子X阻害による増殖抑制のメカニズム解明のための実験を実施した。
著者
田中 一大
出版者
COSMIC
雑誌
呼吸臨床 (ISSN:24333778)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.e00020, 2017 (Released:2019-04-27)
参考文献数
42

生体を構成する細胞は,さまざまな物理的刺激(メカニカルストレス)に応答して,増殖・分化・形態形成を制御する。近年,物理的刺激が感知された後の応答分子として,Hippoシグナル経路およびその標的因子である転写共役因子YAP/TAZが同定された。Hippoシグナル経路・YAP/TAZは,発生過程で臓器サイズを決定する重要な役割を担う一方で,腫瘍の悪性化にも深く関連している。肺癌においては,YAP/TAZが細胞外基質の硬度に応答して細胞増殖に寄与している可能性が高い。それに対し,悪性中皮腫においてはHippoシグナル経路の破綻が基軸となり,YAPの恒常的活性化を引き起こしている。YAP/TAZの活性化は,細胞外基質の再構築にも関与し腫瘍進展を促進している。