著者
濱中 康治 志村 圭太 梅村 悟 永井 洋 伊藤 博子 中島 啓介 長崎 稔 木村 鷹介 中村 拓成 田中 尚喜 柏口 新二 岡田 知佐子 紙谷 武 石崎 一穂 片野 裕司
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101523-48101523, 2013

【はじめに、目的】成長期における野球肘においては、発育途上にある骨端骨軟骨の障害が多いことに特徴がある。なかでも離断性骨軟骨炎とも呼ばれる、上腕骨小頭骨軟骨障害(以下OCD)は進行すると治療に難渋するため早期発見が望まれる。OCDの早期発見を目的として、1981年から徳島県で実施されている野球肘検診をはじめ、全国各地で野球肘検診活動の取り組みが行われ、その活動は広まり始めている。その多くは、各地の野球教室や野球大会と合同で開催され、野球教室や大会の現場での検診が実施されているが、大規模な検診になると、より多くの機材やマンパワーが必要となるため、都市部での野球肘検診の実施には高いハードルがある。当院では、都市部における野球肘検診活動として、2010年より医療機関内における野球肘検診を実施している。OCD発症予防のための啓発活動と野球肘検診活動の更なる拡大を目的として、その取り組みの紹介とこれまでの検診結果を報告する。【検診方法】当院では1ヵ月に1度、平日の午後6時から、スポーツ健康医学実践センター内で野球肘検診を実施している。野球肘検診については、その目的と機能から保険外診療とし、1件の受診料は2500円に設定している。対象はOCDの好発年齢・保存的加療の適応年齢を考慮し、原則として10~12歳の小学生としている。理学療法士(以下PT)による理学所見評価、臨床検査技師による超音波画像検査(以下エコー検査)、医師による総合評価を実施する。 理学所見評価については、肘関節屈曲・伸展の他動運動時の疼痛と可動域制限の有無、内側上顆・腕橈関節・肘頭の圧痛、外反ストレステストでの疼痛、手関節屈筋群(上腕骨内側上顆に起始するもの)の筋委縮、橈骨頭の肥大、尺骨神経溝部での尺骨神経亜脱臼の有無を評価し、その他、肘関節以外にも利用者が疼痛を訴えた箇所に必要な所見を評価している。エコー検査では前方・後方から上腕骨小頭の不整像の有無とその程度を評価し、それらの結果から、医師による総合評価で二次検診の必要性を判断し、二次検診の必要ありと判断された利用者には、医師が紹介状を作成し、医療機関での精査を勧めている。【倫理的配慮、説明と同意】今回の報告におけるすべての調査は電子カルテを用いて後方視的に行っており、対象者に有害事象は生じなかった。また匿名性の保持と個人情報流出には十分留意した。【検診結果】2010年6月から2012年11月までに、延べ119名の利用があった。年齢は10.5±1.1才だった。理学所見評価での異常所見は肘関節の他動運動時痛3名(2.3%)、可動域制限39名(32.8%)、内側上顆の圧痛10名(8.4%)、肘頭の圧痛1名(0.8%)、腕橈関節部の圧痛0名(0%)、外反ストレステストでの内側部痛20名(16.8%)、手関節屈筋群の筋委縮2名(1.7%)、橈骨頭の肥大4名(3.4%)、尺骨神経溝部での尺骨神経亜脱臼3名(2.5%)に認められた。エコー検査での異常所見を認めたものが6名(5.0%)であった。医師の総合評価によって二次検診の必要ありと判断されたのは27名(22.7%)で、肘内側部障害の疑い18名、OCD疑い6名、上腕骨近位骨端線障害1名、体幹・下肢の骨軟骨障害疑い4名だった。二次検診の必要ありと判断された利用者27名のうち、当院でのフォローアップを実施したものは18名(66.7%)であった。【考察】OCD疑いと判断された6名のうち、3名が肘内側部に圧痛・外反ストレス痛を認めた。1名は肘関節の伸展制限のみを認めたが、2名についてはエコー所見以外、全ての所見で異常は認められなかった。一般的にOCDは投球時の肘外反ストレスによる肘外側部への圧迫・剪断力によって生じ、外側部に疼痛が出現するとされているが、当院の野球肘検診でOCDが発見された6名はいずれも肘外側部の理学所見は認めなかった。このことは早期のOCDは理学所見に乏しく、OCDの早期発見にはエコー検査が有用であることを示すものである。また、当院でフォローアップを実施したOCD疑い5名の中で、定期的な野球肘検診の必要性を示唆する1例を紹介する。初回の検診時(10歳10ヶ月時)にはエコー検査を含めた全ての所見で異常を認めなかったが、その7ヶ月後(11歳5ヶ月時)の検診で外反ストレステストでの内側部痛があり、エコー検査で初期のOCDが発見された。その後、投球動作を禁止することで約7ヶ月後に良好な骨化が確認され、競技復帰が可能となった。この経験から、当院では10歳前後のOCD好発年代には定期的な検診の必要性を啓発し、6ヶ月に1度の検診を勧めている。【理学療法学研究としての意義】医療機関における野球肘検診を紹介することで、野球肘検診を実施できていない地域にも野球肘検診を広め、PTがその活動に参加することにより、より多くの野球プレーヤーを障害から守ることが可能になる。
著者
加藤 秀卓 田中 尚喜 金 景美 高橋 剛治 室生 祥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P2385, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】骨粗鬆症における脊椎圧迫骨折(以下圧迫骨折)患者は高齢者に多い.臨床症状は、無症状のものから日常生活動作に障害をきたすものまで様々である.当院では保存療法,体幹装具着用下にて可及的早期に離床させることを目指しているが、起き上がり時に強い腰背部痛(以下疼痛)を訴え、プログラムが停滞することが多い.我々は疼痛が起き上がりを阻害し長期臥床を生じさせていると考え、今回、圧迫骨折患者の起き上がり方により疼痛及び起き上がり自立までの日数に差異があるか否かを検討した.【対象】2008年3月から10月の間に当院にて新鮮圧迫骨折と診断され入院し、本研究の趣旨を説明し、同意を得た患者18名(男性4名,女性14名、平均年齢73.7±11.7歳、体幹装具軟性12名,硬性6名、受傷椎体第8,11,12胸椎,第1から第4腰椎).神経症状を伴う者は対象から除外した.いずれの対象者も鎮痛消炎剤を服用しており、受傷前には起き上がりが自立していた.【方法】体幹装具着用下に患者にベッド上仰臥位から端坐位まで起き上がりを行わせた.口頭指示及び介助は行わなかった.測定項目は起き上がり方法,起き上がり時の疼痛,起き上がり自立までの日数とした.起き上がり方法は、仰臥位から側臥位を経て端坐位になる方法(以下側臥位法)と仰臥位から長坐位を経て端坐位になる方法(長坐位法)の2つに大別した.起き上がり時の疼痛はVASにて測定した.起き上がり方と疼痛,起き上がり自立までの日数をMann‐WhitneyのU検定を行い危険率5%未満を有意とした.【結果】起き上がり方法は側臥位法11名61%,長坐位法7名39%であった.起き上がり方法と疼痛,起き上がり自立までの日数において有意な差は認められなかった.【考察】今回の検討では、圧迫骨折患者における疼痛が少ない起き上がり方法,早期に起き上がりが自立できる方法は見出せなかった.圧迫骨折の疼痛に対し、直接的に除痛を図る運動療法についての報告は見当たらない.体幹装具は起き上がり時に対する制動低下が疼痛を誘発する一つの要因と考えられる.また起き上がり方法は、筋力,バランス能力,可動性が関与し、加齢による退行現象があると言われている.体幹装具着用での起き上がり動作は受傷以前の起き上がり方法を阻害するのではないかと考えられる.今後は各身体部位の使いかたが起き上がり動作に関連しているものと考え、圧迫骨折患者の安静期間および理学療法の介入方法についての調査を行い、早期離床を図れる方法を検討していきたい.
著者
田中 尚喜
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.540-543, 2015-06-25

はじめに 履き物としての靴は,人間の歩くなどの活動を支持すること,足部や身体を保護することが最重要の事項と考えられるが,古代エジプトでは神官などの身分を示すものとして使用された.当然,機能的ではない華美な装飾も用いられた.したがって,歴史的な流れの中で,機能的な靴とファッショナブルな靴など,アンビバレントな状況で進化してきた.また,モータリゼーションの影響もあり,本邦のみならず世界的に歩行距離が減少してきている.本来,ファッショナブルな靴も履く側の足に合わせて使用されるものであったが,昨今の靴の選択要素として,短期間の履き心地が重要となっている.オーダーメイドの革靴では使用するまでには1カ月は必要とするのだが,非日常的な遠足や運動会などの直前に既製品を選ぶ際に,履き心地を重視するあまり,「芯のない靴」,言い換えるとソックスを履くのと変わらない靴を購入する方が増えている.確かそれらの行事のお知らせには,靴に対しては「履き慣れた」という言葉が付いていたと記憶している.科学技術の進歩と逆行して,足部は間違いなく退化の一途となっている. そこで,靴と履く側の人間の変化を考慮したうえで,現在の足部障害について検証してみる.