- 著者
-
田中 義浩
- 出版者
- 東京医科歯科大学
- 雑誌
- 若手研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2004
本研究は,各種食品の食塊の物性測定を行い,嚥下食前の物性を明らかにし,そこに至るまでの変化を解析して,その動態を調べた.また,義歯装着者に対しても同様に解析し,健常者との比較を試みた.被験食品はせんべい,チーズ,ピーナッツを選択した.被験者は健常者と義歯装着者を,義歯装着者はアイヒナーB4,あるいはC群を選択した.直径12mm,高さ10mmのアクリル製のコンテナーに食塊を格納し,直系5mmのプランジャーを用いて物性を測定した.測定項目は破断エネルギー,弾性率,粘性率,硬さ荷重,付着性,凝集性である.解析には多変量解析を用いた.また義歯装着者の解析には健常者から得られた因子スコア係数を使って,因子スコアを算出した.健常者では凝集性が他項目とは独立していて,咀嚼の進行に伴い収束したが,他の測定項目については,収束しなかったため,残りの5項目について主成分分析,因子分析を行った.その結果,全ての食品において,おおむね因子1は破断エネルギー,硬さ荷重,付着性と,因子2は弾性率,粘性率と相関が高くなった.すなわち,嚥下直前の物性は,食品の相違にかかわらず,各項目の構造的な位置関係が一定になることが示された.義歯装着者は求めた因子スコアから,健常者と比較して,咀嚼回数が少なく健常者の嚥下直前の物性に至る前に咀嚼を終えている被験者,咀嚼回数が多く健常者よりさらに咀嚼が進行した状態で咀嚼の後期に至る被験者の二通り認められた.また凝集性は健常者と同様で,他の物性の項目とは独立して一定の値に収束した.以上結果をまとめると,健常者の嚥下直前の食塊物性は,各項目間の構造的な位置関係が一定になることが示され,いわゆる嚥下閾地の存在が示唆された.また,義歯装着者での解析から,食塊物性からの咀嚼の評価には,凝集性,咀嚼回数,凝集性以外の物性の3者での評価が必要であることが示唆された.