著者
川上 有光 河野 寛 田中 重陽
出版者
国士舘大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

先行研究において,反応時間は呼吸相による影響を受けることが明らかにされており,特に呼気相に局所的反応時間および全身反応時間が高まることが報告されている。つまり,この呼吸相と反応時間の関係は,反応時間がパフォーマンスに影響する競技においては重要な役割を担うことになる。剣道は局所および全身の反応時間を高める必要がある代表的な競技の1つである。全身反応時間は呼吸相のうち,呼気相に高まることが分かっている。しかしながら,剣道の打突反応時間における呼吸相の影響はいまだ明らかではない。これを明らかにすることで,剣道の試合中や練習中に呼吸をどのようンにコトロールすればよいのかが明確になり,剣道の競技力向上の一助になると考えられる。そこで、本年度は呼吸相が剣道における打突反応時間に影響を及ぼすかどうかを検討するために,剣道有段者の大学剣道部員を対象として,自由呼吸,統制呼吸および息止め中の打突反応時間を評価する実験を実施した。その結果,自由呼吸および統制呼吸において,呼気相と吸気相の打突の反応時間に有意な差は認められなかった。一方,膝が動き出す時間と剣先が動き出す時間のピーク値については,統制呼吸時と比較して息止め時で有意に低値を示した。このことは息を止めている状態がもっとも早く反応できる可能性があることを示している。しかしながら,実際に竹刀が目標に当たる時間については,試技間に有意な差は認められなかった。一方で,自由呼吸は,吸気相および呼気相いずれにおいても,統制呼吸よりも剣先の反応時間が早かった。これは呼吸の仕方が少なからず反応時間に影響を及ぼすことを示唆している。本研究では,呼吸相が剣道の打突反応時間へ明確に影響を及ぼすことを明らかにはできなかったが,少なくとも息を止めている状態において反応時間が早くなること,また呼吸の仕方が反応時間に影響を与えることを示唆する結果が得られた。