著者
矢久保 空遥 田内 隆利 久保 光徳 寺内 文雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_81-2_88, 2015-07-31 (Released:2015-10-25)
参考文献数
12

本論文では,ロシア連邦サハ共和国で演奏されている伝統的な口琴であるKhomusとイタリア共和国シチリア島で演奏されているMarranzanuと呼ばれる口琴の2つをサンプルとして,これらの形態的な特徴,音響的な特徴,社会的な特徴の3つの側面から比較を行った. 形態的な特徴において両者を比較すると,Khomusの弁には均一な角度でエッジ加工が施されており,Marranzanuの弁にはエッジができるような加工は施されていないことが確認された. 音響的な特徴の比較では,自己相関関数の違いからそれぞれの周波数構造に着目し,一方が奇数倍音を多く含む矩形波に近い構造,他方が整数倍音を多く含むノコギリ波に近い構造をしていることを明らかにした. これは,音による印象そのものに影響を与えうるファクターであり,音に対する印象評価を行った先の研究と照らし合わせて考えると,特に「活発性因子」において大きな差があることわかった. 社会的な扱われ方の違いについては,それぞれの国での演奏されるシーンや,催事などの有無といった点から民族的な意味合いを強く持ったKhomusと民俗的な意味合いを強く持ったMarranzanuであると解釈することができた.
著者
丸山 萌 田内 隆利 久保 光徳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_41-3_50, 2020

<p>本研究の目的は,人形用キモノの形態学的特徴から衣服のデザイン要素としての「キモノらしさ」を明らかにすることである。人形用のキモノは,和裁の理論にとらわれない方法で,人のキモノをより特徴が際立つように簡略化し,再構成したものであると考えられる。人形用キモノの特徴を調査するため,1/6 スケールの着せ替え人形「ジェニー」用に作られた 17 点のキモノ作品例を収集し,分類した。実際にそれらの人形用キモノを再現し,制作過程の検証と形の観察を行った。各作品の特徴を人のキモノと比較し,材料と各パーツの構成の関係,制作の難易度,各部の幅の比率,人形の身体の形との関係に着目した。考察の結果,キモノらしさのデザイン要素は,人形用キモノ全体に共通する特徴としての一定の形の要素に加え,布幅に由来する各部の幅の比率,材料を無駄なく生かす使い方にあると結論づけた。また人形のキモノがこれらの要素を踏まえつつ,自由な解釈により制作された様子を示した。</p>
著者
矢久保 空遥 田内 隆利 久保 光徳 寺内 文雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_1-2_6, 2015-07-31 (Released:2015-10-25)
参考文献数
9

本論文では,口琴とよばれる楽器をサンプルとして用い,その音による印象と口琴のもつ形態的な特徴の関係を考察した.実験では,まず25 種の口琴が持つ形態的な特徴を抽出し,その特徴の有無を元として,これを数量化Ⅲ類によって構造化した. その後,各口琴の音に対する印象傾向を因子分析によって分析した. その結果,口琴の音による印象は「活発性因子」「評価性因子」「存在感因子」の3因子で説明できることが明らかとなった. その後,各口琴の数量化Ⅲ類によるサンプルスコアの値と因子分析によって得られた因子得点の相関係数を求めた.数量化Ⅲ類によって示されたⅠ軸は,「加工技術軸」であると読み取ることができ,数量化Ⅲ類で得られた「加工技術軸」と,因子分析で得られた「評価性因子」との間に正の相関があることを確認した. 結論として口琴の加工技術が高く,口琴を構成する細部の形状が緻密であるほど,その音は味わい深く,情緒性の高いものであると示唆された.
著者
丸山 萌 田内 隆利 久保 光徳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_75-5_80, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
16

本研究は,日本の伝統的衣服であるキモノの形の意味を,ものから得られる情報を通して明らかにしようという試みである。キモノはほどけば布に戻るものとされ,「繰り回し」と呼ばれる作り替えが行われていたことが知られており,制作時から予め再利用を見込んだ形に作られていたと考えられる。キモノがどのように作られ,また作り替えられてきたのか,日常着として着用されていた2点のキモノの観察・解体によって調査し,制作および作り替えの過程と形との関係を考察した。 資料の解体から,キモノの形に共通する構成の特徴は,狭い幅の布を用い,できるだけ裁断を少なくし,手縫いで作ることであるとわかった。作り替えられたキモノからは,共通の布幅を生かした各部の入れ替えの様子や,布の重なる部分や目立たない部分に痛んだ布や小さな端切れが巧みに生かされている様子が確認できた。調査より,キモノの形は,決まった量の材料を余らせずにできるだけ大きく使うことで作り替えの可能性を広げた,材料を最大限に生かすための形であると結論付けた。また,衣服としての形が一定であることにより,制作技術の習得と応用を容易にし,作りやすさを追求した形であると考えた。
著者
久保 光徳 矢久保 空遥 田内 隆利 寺内 文雄 青木 弘行
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.75-78, 2011-09-30 (Released:2017-08-31)
参考文献数
7

人の手によって自然発生的に生み出され,そして日常において使用されて来ている民具の一つの背負子の形状に注目し,そこに隠されていると思われる力学的な意味を明らかにするために,初等的な材料力学および構造力学の手法を用いて力学的な形状評価を試みた。背負子が背負われた時の力学的状況をシミュレートするための典型的な背負子の有限要素モデルを定義した。この有限要素モデルに実際の使用を想定した荷重条件を与え算出した背負子上の応力分布から,応力の主軸,せん断力,曲げモーメントの分布が求められた。そしてその結果に従って,さらに単純化された背負子の材料力学モデルを定義し,より単純化された形においてその形状の力学的意味を検討した。その結果,この材料力学モデルによる背負子形状の検討を通して,この背負子形状が,形状全体において,最適形状の一つである等応力形状に準ずる形であることを明らかにした。
著者
久保 光徳 寺内 文雄 青木 弘行 田内 隆利
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究はまず,1/fゆらぎを持った三次元形状が心地よさ(情動)に与える効果に着目し、このゆらぎを適用した立体格子と規則的に配列された立体格子を制作し,両者を心理的・生理的な観点から評価することで,心地よさ(情動)に及ぼす1/fゆらぎの影響を立体格子形状を通して明らかにすることを試みた。結果として,1/fゆらぎを持った立体格子は,その触り心地や自然な外観が心地よさ(情動)を提供する造形要因となりうることが示唆された。次に,デザインプロセスにおける"発想の飛躍(気づき)"をモデル化するために,一般的なデザインプロセスを表現する平面(デザインプロセス平面)を定義し,それに直交する平面を,プロセスを通してデザイン実践者が持つと想定できる情動やイメージを示す平面としてのイメージ平面を定義し"気づき"を図式化することの可能性を示唆した。最後にこの心地よさと気づきをいずれも情動と理性との複合空間により説明できるとし,基本的な情動モデルの提案を行った。