著者
山崎 寿 西村 国男 田口 亮平
出版者
The Japanese Society of Sericultural Science
雑誌
日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.118-126, 1955-04-29 (Released:2010-11-29)
参考文献数
10

(1) 有明天柞蚕試験地の飼育用4年生櫟樹林において, 萠芽前に地上1.5-1.8mを残して主幹を伐採した主幹伐採区と, 無手術のまま放置した対照区とに柞蚕を放養して, 両区の蚕児の発育状態, 作柄及び飼育樹林の葉質を調べ, これに依り主幹伐採による葉質の変化並びにこれが蚕の作柄に及ぼす影響を考究した。(2) 本実験を行つた1953年は多雨寡照の気象状態を示し, 柞蚕の作柄と葉質との関係を追求するのに好都合の年であつた。(3) 主幹伐採区は対照区に比較して,(イ) 病蚕歩合少く, 健蛹歩合が大である。(ロ) 幼虫体水分率及び体液水分率は小であり, 幼虫体体液屈折率は大である。(ハ) 幼虫の体重が大で, 発育は斉一で経過が早い。(ニ) 繭重, 繭層重及び蛹体重は共に大であり, 繭層歩合は大差ない。(4) 主幹伐採区は対照区は比較して,(イ) 主幹及び側枝の頂芽の伸長が旺盛であり, それに着生する葉数も多い。(ロ) 葉は緑色が濃厚で, 葉身長, 葉巾が大で, 葉肉がより厚い。(5) 主幹伐採区は対照区に比較して,(イ) 葉の水分率が大で乾物率は少い。(ロ) 乾物中の蛋白質の割合が著しく多く, 炭水化物, 粗繊維, エーテル浸出物及び粗灰分の割合は幾分少い。(ハ) 灰分組成ではMn2O3及びMgOに著しく大であり, P2O5及びCaOは大差はないが, SiO2, SO3, Cl, K2O, Na2O, F12O3+Al2O3, は幾分少い。以上の結果を綜合するに, 野蚕飼育用櫟樹の葉は桑葉に比較して著しく粗硬で含水率や蛋白質含量がはなはだ少いが, 萠芽前主幹伐採を行い, 側枝の再生生長を促進させるときは, これに伴つて葉の含水率, 蛋白質含量を増大し, 炭水化物含量及び細胞液屈折率を低下せしめるが, これ等の葉質の変化は柞蚕の蚕作を明かに良好ならしめる。
著者
山崎 寿 西村 国男 田口 亮平
出版者
The Japanese Society of Sericultural Science
雑誌
日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.413-419, 1955

6年生櫟樹の主幹及び側枝における貯蔵澱粉含有量の季節的変化を顕微化学的に追求し, 次の結果を得た。<BR>(1) 貯蔵澱粉の含有量は主幹においても側枝にても, 又各々の1年生部位, 2年生部位, 3年生部位及び4年生部位にても殆んど同様の季節的変化を示した。然し各部位共その先端部はその基部に比較して貯蔵澱粉の増減の変化がより判つきりしている。<BR>(2) 各部位共貯蔵澱粉の最大期は, 春の雨芽直前 (5月上旬) と秋の黄葉期 (10月中旬) との2回あり, 後者は前者に比して特に顕著である。貯蔵澱粉の最少期は初夏の雨芽伸長期 (6月上旬) と厳冬期 (1月上旬) との2回で, 前者では木質部の貯蔵澱粉は殆んど消失し, 後者では皮部木質部共に殆んど皆無になる。<BR>(3) 冬期貯蔵澱粉の減少に伴う脂肪の増加は認められず, 糖類の増大が起る。<BR>(4) 貯蔵澱粉の蓄積は皮部においては求心的に起り, 減少の場合は遠心的に消失する。木質部では斯る組織的な差異は認め難い。<BR>(5) 春期形成層が活動を始める時期は5月中旬- 下旬で, 主幹側枝共に1, 2年生部位は, 3, 4年生部位より早い。この時期より新しく形成された春材部に澱粉が出現するまでの期間は1, 2年生部位では3, 4年生部位よりも長い。秋材は6月下旬-7月上旬に生成が始まり, 各部位共殆んど同時にその部分に澱粉が現われる。<BR>(6) 幹及び側枝のところどころにおいて, 周皮と初生皮層との間に特殊な貯蔵組織が形成せられここに澱粉の蓄積が起る。これは9月中旬-10月上旬に生成され, 黄葉期には澱粉が充満するが冬期には澱粉は消失する。