- 著者
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田宮 昌子
- 出版者
- 一般社団法人中国研究所
- 雑誌
- 中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.2, pp.1-16, 2015-02
筆者は,失意の士人の志を詠う「悲憤慷慨の系譜」を中国の文の伝統を特徴づける重要な要素として,それを楚辞の伝承の系譜,特にその中心にある屈原像を切り口として考察して来た。この研究主題はもともと現代中国知識人の思惟様式および現代中国の社会と文化を規定する伝統要素についての関心に導かれたものであり,着想の背景には80年代中国における憂国憂民を特徴とする社会的議論と89年民主化運動の顛末があった。「六四」後20年を取材した翰光『亡命』に接し,改めて出発点の関心に思いを致し,「悲憤慷慨の系譜」の現在を,第一次・第二次天安門事件と「その後」における屈原像をめぐる現象と議論から考える。