著者
柴田 哲雄
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.30-39, 2015-07

福建省在任時期に習近平が抱懐していた外交政策の原像は,毛沢東の「独立自主」の思想の影響を受け,「韜光養晦,有所作為」に対して異を唱え,安全保障や主権・領土の問題に比重を置くものであった。また同時期に習近平が推進しようとした福建省独自の対台湾政策は,同省の経済発展を第一の目的として,台湾との経済交流などの強化を図る一方で,台湾独立を掲げる民進党の陳水扁への批判を抑制するものであった。現在の習近平政権の対外政策は,概ねのところ彼の外交政策の原像が反映されたものだと言える。また同政権の対台湾政策は,福建省独自の対台湾政策の影響が見出されていたものの,2014年9月の習近平による「一国二制度」適用の発言以降は流動的になっており,さらなる注視が必要になっている。
著者
程 蘊
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.1-23, 2014-04

戦後の中国の対日政策は,中国の国内事情と対日情勢認識のみによって形成されたものではなく,中国政府と政策対象(自民党,社会党,貿易団体など)との相互作用も深くかかわっていた。本稿は池田政権初期において,中国政府と自民党日中友好派との相互作用をめぐる,中国の対自民党政策の形成過程を究明する。「反米中立」の対日基本方針の下で,中国政府は対自民党工作を推進していたが,自民党日中友好派という政策対象からのフィードバックを受けて,その対自民党政策を修正し続けていた。結局,対自民党工作は挫折に終わったが,その工作によって,自民党日中友好派という日中政府間の連絡ルートが形成されることになった。
著者
浜口 允子
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.15-30, 2013-06

日中戦争期,時の華北政権にとって最大の課題は,この地を如何に維持し統治するか,拡がりつつある「解放区」に抗して,民心の掌握に努めつつ治安をどう保つか,であったと思われる。では,そのために政権は何をしたのか。日本はそこで如何なる役割をはたしたのか。その下で基層社会はどう変ったのか。本稿は,これまで用いられることの少なかった『中国農村慣行調査』公租公課関連資料を詳細に読むことにより,こうした時代の動向と,関連して動いた華北基層社会の変化の実相を明らかにし,更にそれがその後の歴史とどう関わるのか考察しようとするものである。
著者
田宮 昌子
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.1-16, 2015-02

筆者は,失意の士人の志を詠う「悲憤慷慨の系譜」を中国の文の伝統を特徴づける重要な要素として,それを楚辞の伝承の系譜,特にその中心にある屈原像を切り口として考察して来た。この研究主題はもともと現代中国知識人の思惟様式および現代中国の社会と文化を規定する伝統要素についての関心に導かれたものであり,着想の背景には80年代中国における憂国憂民を特徴とする社会的議論と89年民主化運動の顛末があった。「六四」後20年を取材した翰光『亡命』に接し,改めて出発点の関心に思いを致し,「悲憤慷慨の系譜」の現在を,第一次・第二次天安門事件と「その後」における屈原像をめぐる現象と議論から考える。
著者
加藤 靖子
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.15-29, 2016-02

1980年代までの旧幹部制度期においては,女性はエリート地位獲得に不利であると言われてきた。そこで,女性エリートの経歴分析を行うことにより,エリート女性の特徴やこれまで明らかにされていなかった専門職から党政職及び下級管理職から上級管理職への移動に関する選抜要素を明らかにすることを試みた。その結果,専門職から党政職(管理職)への移動では,政治姿勢に問題がないと認められることが第一であり,教育的資格はさほど重視されないが,上級幹部に選抜されるためには学歴(実務能力)に加え,人事権を握る党グループメンバーからの評価が重要である可能性のあることが示された。