- 著者
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青梨 和正
田島 知子
久保田 拓志
岡本 幸三
- 出版者
- Meteorological Society of Japan
- 雑誌
- 気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.99, no.5, pp.1201-1230, 2021 (Released:2021-10-30)
- 参考文献数
- 35
- 被引用文献数
-
2
全天候マイクロ波イメージャ輝度温度を雲解像モデルの降水物理量へ同化するため、2スケール近傍法を使うアンサンブルに基づく変分同化法スキーム(EnVar)に、降水の非正規型確率分布関数(PDF)と、PDFの代用レジームを使った新しい位置ずれ補正法を導入した。
多くの事例について降水のアンサンブル予報摂動の既存の非正規PDFモデルへの適合性を評価した。これをもとに、降水強度のPDFとして混合対数正規分布を選び、EnVarに降水なし、降水ありの2つのPDFレジームを導入した。次に、EnVarで非降水、降水、強雨の代用レジームを導入し、そのPDFを対象地点の周囲のPDFの平均で近似する、降水の位置ずれ補正法を開発した。この平均の水平スケールは、アンサンブル予報摂動の相似性に基づいて推定した。上記手法が、マイクロ波イメージャ輝度温度の観測値と第一推定値の差のバイアスと正規性を向上させた。
台風1518について全天候マイクロ波イメージャ輝度温度観測データを同化する実験を行なった。その結果、本研究のEnVarは、従来の、降水の単一の正規分布PDFレジームを使うEnVarに比べて、衛星全球降水マップ(GSMaP)に近い降水解析値を与えた。降水の混合対数正規分布の導入は、台風や前線付近の強雨域で解析降水量を強め、代用レジームの使用は、解析値の降水の位置ずれ誤差を大幅に減らした。本研究のEnVarは、雲解像モデルの12時間予報までの降水予報を改善し、1日以上の台風中心位置や中心気圧の予報を改善した。さらにEnVarの予報解析サイクルは、1時刻の輝度温度同化よりも、台風周辺の強雨の短期予報と台風に付随した降水帯の予報を改善した。